嫌悪感
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Y美からM君の電話番号を渡されてから3日。 毎日、バイトの帰りに公衆電話の前を通るたび、「かけなきゃ・・・」とは思っても、何と言ってかけてよいのか分からずに通り過ぎていました。 私には、M君に電話をかける理由がありませんでした。 好きな相手になら、理由など無く声が聞きたいだけで電話は出来ても、何の感情も湧かない相手には無理でした。
それでも、紹介してくれたY美に 「Mが、電話待ってるよ〜」 と言われる度に、断る言葉も浮かばず、一度ぐらいは電話しないと申し訳無いというプレッシャーを感じました。 それに、M君が私を好きになってくれているという事が、本当は嬉しかったのだろうと思います。 男性に自分が好かれていると思えたことなど、それまでに無かったことで。 だから、少し話して慣れてみたら、M君への気持ちが変わる事があるかもしれないと思いました。
4日目の木曜日。 バイトの帰りに、私はM君に電話をかけました。 結構、しつこく毎日のようにY美から「電話待ってるって」と聞かされていたのに、
「亞乃ですけど」
と掛けた電話にM君本人が出たにも関わらず、
「ああ・・・」
と気の無いような返事が返って来て、まるで待ってなど居なかったかのような素振りでした。
「バイトの帰り?」
そんな事を聞かれたような気がします。
「遅いんだな」
とも言われたような気がします。 よく覚えていません。 ともかく会話は案の定、続きませんでした。 ふいに、M君に
「日曜さー、遊ばない?」
と誘われました。私は
「バイトが入ってて、急には休めないんです。ごめんなさい。」
とすぐに答えました。M君は、意外にあっさりと
「そっか。じゃ、また今度」
と言いました。 その後すぐ電話を切り、私は歩きながら「今度か・・」と、なんだか気が重くて仕方がありませんでした。
私は自分の事に置き換えて考えてみていました。 高1の時のI君のことを思い出していました。 あの時、私はI君が好きだとかいう事ではなく、たった30分の会話で自分を判断された事がショックでした。 だから、M君に同じことをしてはいけないと。そう思っていました。 せめてもう一度。会ってやっぱりダメだったら断ろう。 そう決めました。
その頃、私はバイト先ではかなり頼りにしてもらっていて、丁度3月で大学生バイトの人たちが辞めたこともあり、休みが取りづらい状況になっていました。 自分がこれから先、何の予定も無いと思っていたので、日曜日は朝から晩まで入れてしまっていました。 一か月分のシフトが既に決まっていて、4月中は無理な状況でした。
そして、M君に電話をかけてから1週間近く。 Y美から「Mが、電話掛かってこないなって気にしてる」と2回ぐらい言われていましたが、会う予定を空けられない状況では連絡しても意味が無いと思い、電話を出来ずにいました。 次の日曜日が近い週末だったと思います。 夜21時半頃。電話が鳴りました。
その時間には、大概、父は寝ており、滅多に電話が鳴る事はありませんでした。 例え、私の友達が急用で電話をかけてくるにしても、21時前までの事でした。 母はお風呂に入っていました。 何回か鳴り、私が電話に出ようかと立ち上がりかけた時に、父が電話を取りました。 そして、「亞乃、電話だ」と呼ばれ、私は誰だろう?と思いながら両親の寝室に行き、父の寝ているすぐ側の電話を取りました。
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