壊された
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「さっき、お前ん家に電話したんだよ。したら、親に文句言われてさ」
K先輩はそう言いました。 その瞬間、私の体の血液が全て一気に頭に上ったかのような感覚に教われました。 そのせいで、顔が腫れあがっているような気がしました。 神経が全て頭にあるような状態で、後頭部がガンガンしてきました。
「なに、言われたんですか?」
私がそう尋ねると、K先輩は
「いや、俺も悪かったんだけどさ。お前のオヤジさんに怒鳴り返しちゃってさ」
と答えました。 私は驚きました。 母が、私の行動を嫌がっていて何かするのなら分かるものの、父までがそんな行動に出るとは私の予想外でした。
「え?父が電話に出たんですか?」
確認したくて聞き返しました。 父が、母のような意地悪をする筈が無いと思いたかったのです。
「いや、最初に母ちゃんが出てさ。 亞乃が夜中に家を出るのは、アンタに電話してるからでしょうって怒ってさ」
私がしていた事で、母親の矛先が私ではなく、K先輩に向ってしまった申し訳なさで一杯になりました。 と、同時に。 私は親を許せない。そう思いました。 あまりにも一気に血が上ったせいか、私は感覚がおかしくなっていました。 ドクンドクンと脈と同じ速さで、後頭部を頭痛が襲っているのに、その痛さが遠い感じがしました。 半ば、朦朧としていたのだと思います。 K先輩が、その後、何を言ったのかよく覚えていませんでした。 ただ、父に電話を変わったとき、先輩がなんて怒鳴ってしまったかだけは覚えています。
「そんなんだから、あいつは自由が全く無くていつも辛そうなんだ」
K先輩は、私を庇ってくれたのです。 ともかく、私は先輩に謝って、先輩も謝っての繰返しの後、私は公衆電話を出て家に走って帰りました。 走りながら、 これでK先輩と終ってしまう。全部親のせいだ。 そう何度も頭の中で繰り返していました。
あの頃の私にとって、K先輩が全てでした。 大袈裟かもしれませんが、K先輩の存在が私が生きている意味でした。 厳しすぎて何一つ自分の自由にならない家で息を殺して生活し、私は色んな事をいつもあきらめていました。 親と争う事が無駄だと思っていました。反抗する気力すら無かったのです。 親に何かを御願いする事もありませんでした。 学校の学費以外にかかる生徒会費などのお金は、自分のバイト代から出していました。 必要だった靴下やストッキングと言った物も、何も言わずに自分で買っていました。 高校生として学生として、最低限必要な事の為にバイトをし。 遊びに行くでもなく、何一つ親に迷惑を掛けていないつもりでした。 全ては親の思う通り。私は何もかも。同じ年頃の子が普通に出来る事を諦め切っていたのです。
そんな中で、唯一、自分の感情が動く相手がK先輩でした。 唯一、自分が求めるものがK先輩とのことでした。 なのに、それすら。親は壊して奪おうとした。
家に着くと、そのままの勢いで親の部屋の前に立ちました。 開け放たれたドアの向こうに居る両親に向って、怒りのままに怒鳴りました。
「なんで、K先輩にまであんなことするのよっ!先輩は関係ないじゃないっ!」
母親が、「お前が夜中に出てくからだ」と言い返してきました。
「家で電話できないからでしょう?使わせてくれないでしょう?だから出てくんじゃないっ!」
父には、
「あんな礼儀知らずのヤツと付き合うな」
と言われました。
「付き合ってなんかないよ!私が勝手に電話してるだけなのに、どうしてあんなことするのよ!」
K先輩を貶す事は許せない。そう思いました。 物凄い興奮状態でした。
「それも、アンタ達のせいで終っちゃったじゃないっ!どうしてくれるのよっ!」
どのくらい、文句を言ったか分かりません。 最後に、
「もう、いい加減にしてっ!」
と怒鳴って自分の部屋に引きこもりました。 母親が、外で何か言っていました。 私は「うるせーっ」と怒鳴り返しました。
ただただ。 途方も無く悔しくて、悲しくて。 もう、壊れてしまいたいと思いました。 近所中に聞こえるほどの大声で、泣きつづけました。
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