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人物紹介


答え
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私は、K先輩をいい加減な男として、どこか見ていました。
誠実な人だと思ったことは無く。
すぐに面倒になってしまうタイプだと思い込んでいました。
でも、そういうK先輩が好きでした。

ただ、私はからかわれているだけ。ただ、面白がって相手されてるだけ。
ずっと、そう思っていました。
それで、満足でした。嫌われていないなら、それで。
だけど、だんだん苦しくなっていきました。
曖昧な位置にいることが苦しくなってきました。
だから、明確な答えが欲しくなりました。
私に恋愛感情が少しでもあるのか。先に可能性が少しでもあるのか。
無いのなら、可能性もゼロだというのなら、全く関われない他人になりたい。
そう思っていました。

「私のこと、どう思ってますか?」
この言葉を聞くのは、相当な勇気と覚悟が必要でした。
そんな事を聞く女を、大概の男性は面倒がるだろうと思っていたし。
聞く事によって、「私は貴方を好きです」と言ってるのと同じ事になるし。
曖昧な関係だからこそ、居心地が良かったものを、多分崩す事になるだろうと思っていました。

だから、聞いた時に例えK先輩が何も言わ無くとも、その瞬間の反応が答えだと。
慌てふためいて、電話を切ってしまった事が、答えなんだと言い聞かせました。

電話が鳴った時、親からに違いない。そう思い込もうとしました。
だけど、心のどこかで先輩からだと思いました。
でも、それは良い答えを期待するものではなく、改めて終わりを言われる電話だと思いました。

「もしもし」

電話に出ると、受話器の向こうからハァハァという、息切れの音が聞こえました。
不審に思い、もう一度「もしもし?」と言うと

「ちょっ・・・待って・・・」

という苦しそうな声が聞こえました。
この声は・・・

「K先輩?」

私が尋ねると、

「おお。わりぃ〜わりぃ〜。走ってきたからさ〜」

とK先輩は言いました。
走ってきた?
慌てて耳を受話器に強く押し付けてみると、かすかに車の音らしきものが聞こえました。

「え?うそ?わざわざ外からかけてくれてるんですか?」

私は、とても驚きました。

「おお。だってお前さ、急に凄い事聞くからさ〜。慌てて外に出てきたんだよ」

思えば、K先輩の部屋に電話はありませんでした。
ということは、家族が側に居てもおかしくない場所で電話に出たのでしょう。
きちんと考えれば、そんな所で、あんな質問の答えを言えるハズが無い事ぐらい、私が先に気付くべきでした。
私は自分の事ばかり考えていて、悪い事をしたなと思いました。

「ごめんなさい」

そう謝ると、

「いや〜、焦ったよ〜。俺、すっげー、慌ててたべ?」

と言って、K先輩は笑いました。

「うん。すごい慌ててました。ほんと、変なこと聞いてすみませんでした」

私は、本当に申し訳無くて、急に恥ずかしさが込み上げてきました。
そして、あんな事を聞いたにも関わらず、屈託無く笑うK先輩の意外な反応に、戸惑いを感じました。
私が思うほど、K先輩にとって私の質問は重大な事では無いと思われているのだろうか?

K先輩は、息を整えると言いました。

「いや、俺もさ、悪かったよな」

先輩が何に対して謝罪してるのかは分からないけど、これは悪い答えだと思いました。
心臓が、また。ドキドキ大きく鳴り出しました。

「いえ。K先輩は、全然悪く無いです。ただ、私が一人で勝手にグルグル考えちゃってるだけで・・・」

全部、私の一人相撲だと分かっていました。
K先輩の何気ない言動を、いちいち勝手に考え込んでは、振子のように揺れている自分が辛くなっただけなのです。

「そうなんだよなー。お前ってさ、会ってる時も、いっつも一人で何か考え込んでるだろ?」

K先輩に指摘され、先輩は私のそんな事まで見ていたんだ?ということを初めて知りました。

「先輩、見てたんですか?」

思わず、聞き返してしまいました。

「そりゃそうだろ。お前、いっつも俺を目ぇ合わさないけどさ、俺はいつも見てるぞ?」

文化祭の時にRに「K先輩、凄く優しい目で見てる」と言われた事を思い出しました。
と同時に、きっと会っていても詰まらない女だと思われていたんだろうな・・・と思いました。

「すみません・・・」

もう、今までのK先輩の前での自分のしたこと全てが、恥ずかしくて嫌でした。

「いや、なんっていうか・・・」

K先輩は、どう言って良いのか言葉を選んでいるように、口篭もりました。
きっと、答えを言おうとしている。
私は、先輩を困らせている自分が、嫌になりました。

「もう。いいです。聞かなくても分かってますから。ごめんなさい」

わざわざ、私の為に、走って外まで電話をしに来てくれただけで。
それだけで、十分だと思いました。

「なんだよ。まだ何も言ってないだろっ」

K先輩が、怒ったような口調になりました。
一瞬、ひるみましたが、

「あ、ごめんなさい。でも、もう、いいんです。ほんと。すみません」

と言いました。
それ以上は、聞きたく無い。
私は、決定的な事を言われるのが怖くて怖くて仕方がありませんでした。
すると、K先輩は

「あ、ごめんごめん。怒ってないから。ごめんな」

と優しい口調に戻ってくれました。
そして、こう言いました。


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「恋愛履歴」 亞乃 [MAIL]

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