セーター
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翌週の月曜日。 私はバイト帰りにK先輩に電話をしました。 その時、今年もやっぱりスキーに行くと聞きました。 クリスマスまで一ヶ月ちょっとになると、学校で彼氏にセーターを編み出す子を見かけるようになっていました。 私も、軽い気持ちで、セーターを編む事に決めました。 手編みのセーターの重みを、全く考えもしませんでした。
K先輩にアルバムを返す為に朝会えたのは、プレゼントを決め、編物の本を買った翌日でした。 頭にセーターの事があるので、私は賢明に先輩の肩幅や背中を見つめました。 まさか、「測らせてください」ともいえず、前を歩く先輩の背中を、こっそり持っていたカバンと比較したりしてました。 本には、身長に合う毛糸の数などが書いてあり、どうしても身長だけは確認しなきゃと思っていました。 でも、並んで歩く事が出来ず、後ろからでは良く分かりません。 それに革靴を履いていたので、本当の身長が分からず、これだけは聞こうと決心しました。 その聞き方は、
「先輩、中学から背、伸びました?」
という遠まわしな聞き方で、逆に先輩に
「そうだ。お前さぁ、背、伸びただろ?」
と聞き返されてしまいました。 私は中学一年まで背の順で一番前の、ほんとうにチビでした。 それが、2年で部活を始めると一気に伸びだし、K先輩と最初に出会った頃は伸び盛りの状態で。 あの時と比べると5cm以上伸びていました。 でも、自分の身長の話になっては、意味がありません。
「伸びましたけど・・・先輩の方がまだ全然高いじゃないですか」
なんとか、身長幾つですか?と聞き出そうと思いました。 K先輩は、
「いや、俺なんか小さい方じゃん」
と言い出し、一瞬私はひるみました。 どうやら、身長はK先輩のコンプレックスのような雰囲気でした。 聞いてはいけない事を聞いてしまったかも。 と思いましたが、どうしても知りたいので
「え?そうですか?結構、私より高く見えますけど。どのくらい違います?」
と聞きました。 実際は、あまり私と変わらないという印象を中学の時から持っていました。
「お前、幾つ?」
K先輩が聞いてきてくれたので、「161-2ぐらいです」と答えました。 本当は、163に近い身長でしたが、K先輩の身長が160台かもしれないと思っていたので、5cmは差があった方がいいだろうと、妙な気遣いでした。
「ああ、じゃぁ8cmぐらいは違うんだ」
とK先輩が呟きました。 ということは、170ぐらいなんだ・・・と心の中で思いながら、
「ほら、全然大きいじゃないですかっ」
と言いました。 やっと聞けたという安堵感と、思ったより身長差があったことで嬉しさが倍増しました。
その日の帰り、私は二種類の毛糸を購入しました。 バイトから帰ると早速本を見ながら編み始め、学校の休み時間は勿論、授業中も編んだりしていました。 編み始めると、なかなか止めることができず、夜中まで起きている事が多くなりました。 少し編んでは、自分の身体にあてて、「私よりこのぐらい大きいかな」などと考えながら編みました。 ウール100%のその毛糸は、形が出来上がるにつれて、徐々に重くなりました。 試験中に、ずっと下を向いていた時のような肩の懲りを感じました。 後ろ身ごろが出来上り、自分の身体にあてて見ると、なんだか大きすぎたような気がしました。 前身ごろをあむ頃には、かなり慣れて来て、途中で両方並べると編んだ段数は同じなのに若干長さが違いました。 そして、初めての棒編みにも関わらず、無謀にも私は最初、別色でイニシャルを入れようとしていました。 でも、イニシャル入りなんて恥ずかしいかもしれないと思い、胸の所にVの形で別色の毛糸を使う事にしました。
出来上がったのは、クリスマスの1週間前でした。 これを先輩が着たらどんな感じだろう? K先輩の顔を思い浮かべました。 想像以上にズッシリ重く出来上がってしまったセーターを、何度も自分で着てみては、鏡にうつして見ました。 なんだか、左右の袖の長さが違う気がする。 短い方の袖を、延ばしてみたりしました。 首も、ちょっとK先輩にはきついかもしれない。また、引っ張りました。 そして。 私にはダブダブのセーターを見て、やっぱり、大きすぎたかもしれない。 と、せっかく一ヶ月かけて作ったのに、渡そうかどうしようか迷いだしました。
でも、友達に「売ってるセーターみたい」と誉められ、 私としても、若干難はあるものの満足のいく出来だったので、渡す決心をしました。 問題は、いつ渡すか。どうやって渡すかでした。
セーターを編んでいた一ヶ月の間に、K先輩はアルバイトを始めていました。 夜遅くないと捕まらないので、電話でもあまり話す事が出来なくなっていました。 ただ、なぜかK先輩は、私にバイトの日など、予定を電話で話すたびにいつも教えてくれました。 自分の予定を教えるなんて、まるで彼氏だと友達には言われました。 それに、手編みのセーターを渡すと言う事は、「好き」と言ってるのと同じだとも言われ、私の緊張感は物凄いものでした。 まして、クリスマスに誘うなど、恋人同士でも無いのに厚かましくて出来ないと思いました。
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