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人物紹介


無視
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K先輩は、まるで回れ右をするかのように、私の前方4-5mの位置で身体の向きを代えました。
唖然として動く事も出来ずに見送ると、そのまま斜めに歩き、K先輩は駅のトイレに入って行きました。

私は、出てくるのを待つ事が出来ませんでした。
出て来たK先輩を呼び止めるなど、怖くて出来ないと思いました。
それほど、確実に目が合い、明らかに無視されたのです。
泣きそうになりながら、自分の乗る電車のホームに降りました。
階段を降りたすぐ下で、階段に半分隠れるようにしてK先輩の乗るホームの方を見ました。
すぐ、K先輩がホームに降りてきました。
遠くからでも、物凄い不機嫌そうな表情が分かりました。
私は、K先輩に姿を見せてはいけない。
そんな気がして、階段の脇に姿を隠しました。

K先輩の電車が来て発車すると、急にアルバムがズッシリと重く感じられました。
シートをはがして写真を貼る厚い台紙のアルバムは、10分も片手で持っていると手提げが手に食い込み、跡がくっきりと残りました。
気持ちと共に、ますます重くなったアルバムで、私の手は痺れていました。
友達が来るまで、まだ20分近く時間がありました。
でも、私はその重いアルバムを地面に置くことをしませんでした。
K先輩の物を下に置くなど、粗末にするようで出来なかったのです。

友達が来て、なんでアルバム今日も持ってるの?と当然、聞かれました。
「無視されたよ」
と私が言うと、
「きっと気付かなかったんでしょ?大丈夫だよ」
と励ましてくれました。
そうであって欲しいと思いました。
「トイレ行きたくてしょうがなかったんじゃない?」
と笑わせてくれました。
そうであったら、どんなに気が楽かと思いました。
「ちょっと不機嫌だっただけでしょ?」
と慰めてくれました。
不機嫌の原因は、私が突然居たからだろうと思いました。

電車がホームに入ってきた時、私は「やっぱ帰るわ」と言いました。
こんな状態で学校になど行けないし。一人になりたいと思いました。
人前で泣く事が出来ない性格の私は、これ以上、涙を堪えるのが無理でした。
友達に具合が悪くなって帰ったと担任に伝言を頼み、私は家に戻りました。

せっかく早起きしたのに。
朝、母親に文句言われて。だけど、無視して家を出たのに。
いつもより混んでるバスに無理して乗ったのに。
こんなに重いアルバム持って行ったのに。
手が痛くて痛くて、だけど我慢して持って行ったのに。
バッカみたい。
ちょっと親切にされたからって有頂天になって。
だから、勘違いしないようにっていつも注意してたのに。
小さい頃からすぐ調子に乗る性格で。
はしゃぎすぎて、いつだって母親に叱られてた。
母親が突き放したような冷たい態度をとる度に、物凄く悲しかった。
私はどこでも同じだ。何時になっても同じだ。誰に対しても同じ間違いを犯す。
どうしようもないバカ。
ほんと。救えない。

K先輩に無視された自己嫌悪感は、いつの間にか母親との事にまで発展し。
自分自身の存在を全否定したいぐらいの勢いになっていきました。
泣きたくて一人になったのに、何故か涙が出ませんでした。

昼過ぎになって、母親が家に帰ってきました。
案の定、「なんで居るのよ?」と言われました。
「具合が悪いから」と答えたぐらいで、母親が納得する訳もなく。
心境的に、母親の相手などしていられる状態ではありませんでした。
結局、喧嘩になりました。
最後は、「うるせーなっ」と大声で言い返し、部屋に閉じ篭りました。
大声を出したからでしょうか。やっと、涙が出てきました。
母親に聞こえないように、クッションを顔にあてて気が済むまで泣きました。
母親は、家のことを一通り済ませると
「具合が悪いなら、バイトになんか行くんじゃないよ」
と言って、また仕事に戻る為、家を出て行きました。

その日は土曜日でした。
母親の車が出て行くと、私はバイト先に電話を入れました。
休みますと言い、電話を切った後。
K先輩は家にもう、帰って来てるだろうか?と考えました。
少し落ち着き始めると、無視された理由を知りたいと思うようになっていました。
理由が分からない事が、何より嫌でした。
どうせ、無視されるほど嫌われてしまったのなら、電話して余計に嫌われようとも構わないと思ったのです。

イライラして、父親のタバコに目がとまりました。
K先輩と週1の割合で電話で話すようになり、私は吸い始めたばかりのタバコを忘れていました。
吸ってやる。バンバン吸える女になってやる。
そう思いました。
別にタバコを吸う女になったところで、K先輩にとっては何の当て付けにもならないのに、ヤケになってそう思いました。

時刻は夕方4時。両親が帰ってくるまで後一時間半ぐらいでした。
帰って来てバレないように、自分の部屋で吸おうと思いました。
タバコに手をかけた時、電話が鳴りました。
母親がかけてきたのだと思い、目の前で鳴る電話をわざと5コールぐらいさせてから取りました。

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予想外の電話でした。
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「恋愛履歴」 亞乃 [MAIL]

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