バンダナ
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冷静に考えれば、私達二人を差して言われたのですから、その答えは当然でした。 だけど、その時の私は、K先輩の中でそれ以上の存在になれては居なかったんだと。 なんだか悲しくなりました。
K先輩が「先に行ってるから」と言って席を立つと、Rに言われました。
「K先輩って、優しいんじゃん?」
どこを見て、Rがそう言い出したのか分からずにいると
「だって、私にまで気遣ってくれてさぁ。なかなか居ないと思うけど?」
とRは言いました。 そう言われて、それまでRに対しても親切な対応をするK先輩に、嫉妬していた自分が恥ずかしくなりました。 なので、少しぶっきらぼうに
「先輩は昔から、女の人には誰にでも親切なんだよ」
と私は捻くれた答え方をしました。 すると、Rは
「なに言ってんの?私に対するのと亞乃に対するのとじゃ、全然違うじゃん。 私から見たら、十分特別扱いだし。 それにすごい優しい目して、亞乃のこと見てたよ」
と言いました。
Rが言うように考えたら、そうかもしれない。 私は、K先輩が他人にする事に対して、イチイチ過剰反応しすぎなんだ。 と反省しました。 そのクセ、自分がどう接してもらっているのかは、全く気付かない。 鈍感女だったという事に気付きました。
きっと、Rが言うようだったとしたら。 いつもK先輩と会う時は、顔をまともに見れない私が気付かなかっただけで。 今までも、そういう事はあったのかもしれません。 K先輩が優しい目で私を見ていてくれたとき、私は物凄い仏頂面だったかもしれません。 詰まらなそうな顔だったかもしれません。先輩を困らせていたかもしれません。 私はRに言われて改めて、K先輩の優しい面を知った気がしました。
K先輩に言われた教室に行くと、大音量で曲が流れ、ミラーボールがクルクルまわっ ていて、沢山の人が踊っていました。 それは、当時のディスコを真似たものでした。 当然、私はそういう所に出入りした事も無く。 私はその雰囲気に、すっかり圧倒されてしまいました。
教室の中央あたりに、飛び跳ねるかのように踊るK先輩が居ました。 私は自分が場違いな気がしました。 数人の女生徒が、なに?この子達?という目で見ているような気がしました。 Rと二人で端の方で戸惑っていると、K先輩が私達に気付き、人込みを掻き分けて来てくれました。
「あー、ごめんな。やっぱ、落ち着かないよな」
K先輩は、気遣ってくれました。
「いえ、慣れてなくて・・・でも、大丈夫ですから。」
と私は答えました。 私達とK先輩が話をし出した時、さっき視線を感じた女生徒数人の視線が、今度はハッキリと向けられている事に気付きました。 大音量の音楽の中、彼女達は何かを耳打ちしあっていました。 あの中に、K先輩を好きな子が居るのかもしれない。 私は漠然と、そう思いました。 K先輩に平気だと言ってはみたものの、だんだんと居たたまれなくなってきました。 それに、私達の相手をさせては、先輩に悪いと思い始めました。
「あ、でも、そろそろ帰らなきゃいけない時間なんで。先輩、友達の所に戻ってください」
私がそう言うと、K先輩は
「お前んち、門限厳しいんだっけな。外まで送ってくよ」
と言って、玄関まで送ってくれました。 その間にも、
「無理させちゃったかな?親、大丈夫?」
と聞かれ、K先輩の気遣いに対し、余計に私はますます申し訳無い気持ちと、K先輩と同じ事を楽しいと思えない自分が惨めで、泣きたい気分になっていきました。
前を行くK先輩の後ろを歩きながら、Rが耳元で言いました。
「先輩に、さっきしてたバンダナ貰いなよ。」
K先輩がバンドの時にしていたバンダナを、ポケットに入れるのを私が見ていたように、Rも見ていたようでした。 私は「えー、無理だよ」と小声で返しました。
玄関に着き、じゃぁと言って先輩と別れようとすると、
「先輩、亞乃がバンダナ欲しいって」
とRが言い出してしまいました。
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