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人物紹介


一喜一憂
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K先輩達、バンドの感想を正直に言えば。
ボーカルの歌は唸っているようにしか聞こえず、声も通らず、うるさいドラムの音ばかりが聞こえ、ギターに至っては一切聞こえ無いに等しい状態でした。
乱暴としか思えないその叩き方は、K先輩らしいと言えばらしかったのですが。

K先輩は、演奏の間中、やっぱり不機嫌な顔をしていました。
演奏が終わり、私とRは外に出ました。

「K先輩、なんか怒ってるみたいだったね」

Rが言いました。
それに対し、私は

「いつもあんな顔するけど、それにしても、すごい叩き方だったよねー」

と笑いました。
私は、初めてバンドの演奏というものを生で聞いたので、大きな音に免疫がありませんでした。
でもRは、コンサートやライブによく行っていました。
そのRが聞いても、やっぱりK先輩のドラム音は大きかったようです。

外に出て、どうしようか?とRと二人迷っていると、K先輩が出てきました。
「お疲れ様でした」と声を掛けると、

「あー。すっげーメチャクチャだったろ?ごめんな」

とK先輩に謝られてしまい、少し戸惑いました。
K先輩の手には、演奏の時に頭に巻いていたバンダナがありました。
そして、

「喉渇いたな。なんか飲みに行こう」

K先輩にそう言われ、私達は一緒に売店をしている教室に移動しました。
K先輩は、先に空いてる席を見つけて、私達を座らせると

「何のむ?」

とRに聞きました。
Rが「アイスコーヒー」と答えると、次に私の方をみて

「オレンジでいいよな?」

と言いました。
私は一瞬、頭に血が上るのを感じながら「はい」と返事をし、立ち上がりかけると

「俺買ってくるから、ちょっと待ってて」

とK先輩は走って行ってしまいました。

「亞乃、顔、真っ赤だよ」

先輩が居なくなるとすぐ、Rに言われました。
「オレンジでいいよな?」という言葉一つが、「お前の事は知ってるから」というまるで恋人同士のような言葉に聞こえて、私は嬉しかったのです。
Rに指摘された事で、恥ずかしくなり私は話題を変え、

「あ、お金渡さなかったね。」

とお財布を取り出しました。
Rも払うと言ったのですが、付き合ってもらっているのでこれぐらいと言って二人分のお金を用意しました。
K先輩は、アイスコーヒーが二つとオレンジジュースが一つ。
フライドポテトを持って戻ってきました。
私は内心、RとK先輩が同じ物を飲むというだけで、小さな嫉妬心のような感情を抱きました。
その頃、私はコーヒーが苦手でした。砂糖とミルクをたっぷり入れて、やっと飲める状態で。
なんだか、自分一人がお子様な気がして、少しいじけたような気分にもなりました。
でも、そんな事を思う自分を二人に知られるのは、もっと嫌でした。
私がつとめて普通に「あ、先輩。お金・・・」と言うと、

「いいよ。わざわざ来てくれたんだし。こんぐらい・・・ね?」

とK先輩はRの方を見て言いました。
その瞬間、チクリと、心臓を針で刺されたような感覚がしました。
二人で、「有難う御座います」とお礼を言い、ジュースを飲み始めたものの、勧めてくれたポテトは、やっぱり食べる事ができませんでした。
K先輩の前だと、食べ物が喉を通らなくなるのは、相変わらずで。
その私の横で、「いただきます」と言い、普通に食べるRを少し羨ましく思いました。
K先輩は、そんな私達の様子を見て

「ほんと、食わないよな」

と私に向って言いました。

「いえ、今日はお腹空いてないだけで・・・」

とシドロモドロになって答えていると、横からRが

「亞乃、普段は結構、フツーに食べるよね?」

と言いました。
それは、助け舟のつもりで言われた言葉なのでしょう。
私は、ホッとする反面。
普段と自分が、K先輩の前では違う事を知られてしまうと、内心焦りました。
K先輩と居る時の自分が、暗くて大人しすぎて我ながら嫌気がさしていました。
だから、K先輩の前以外の自分を、もっと知って欲しい。
そう思う反面、猫を被っていると思われたく無いという気持ちもありました。

そんな私の気持ちには、全く気付かず、K先輩はボーカルのヤツが全然声が出ないし、音程メチャメチャだし・・・
と、恥ずかしそうな怒ったような顔で、愚痴を言い始めました。
「そうなんですかー」と返事をしながら私は、内心K先輩の事を恥ずかしいと思ってしまった自分に後ろめたさを感じていました。

途中、K先輩のクラスメイトの男性が来て

「なに?K、ナンパしたの?」

と冷やかしました。

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とムキになったように答えました。

私は、その答えに何故か物凄いショックを受けたような複雑な心境でした。
この数十分の間、K先輩の言動全てに一喜一憂を繰返し、私の心は少しヒネて居たのかもしれません。
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「恋愛履歴」 亞乃 [MAIL]

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