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人物紹介


不安と期待
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K先輩にお礼の電話をすると、

「Rちゃんだっけ?あの子、可愛いよな」

と言われました。
私は、O君との最初のデートの時を咄嗟に思い出し、ああ、またかと諦めに似た気分になりました。

Rと一緒に通学するようになって一年半。
電車でいつも男性が見ているのは私の隣に居るのRでした。
下校途中に、誰かを待っている他校の男子校生が声を掛けるのは、私の横を歩いているRでした。
もう、すっかり慣れていました。
綺麗だから当然。
そう思っていたので、妬む気持ちや羨む気持ちなど感じた事はなく過ごしてきました。
でも、さすがに。
大好きなK先輩の口からその言葉を聞かされると、言い様の無い不安に教われました。

「やっぱり、先輩もそう思います?Rね。モテるんですよ。
 この間もね、駅のとこで他の高校の人に告白されてたし。
 でも、Rは速攻で断っちゃってましたけど、そんな事しょっちゅうで・・・」

私は、無理に明るい声で一気にベラベラと喋り出しました。
喋りつづけていないと、なんだか泣きそうだったのです。
心の中は不安でいっぱいになり、
「K先輩もRを好きになりますか?」
という言葉が喉元まで出かかっていました。

と、私の言葉を遮るようにK先輩は

「でも、俺はお前の方がいいと思うけど」

とぼそっと小さな声で言ってくれました。

その瞬間、なんと答えていいのか分からず、私は黙り込んでしまいました。
今聞いた言葉をどう受け止めて良いのか分からなかったのです。
勤めて明るくしたつもりでも、私のいじけた感情がK先輩に伝わってしまい、
だから、K先輩は優しい気遣いをしてくれたのかもしれない。
あの時のO君も、似たような事を私に言ってくれて。
だけど、私はその言葉を素直に受け止める事は出来なかったし。

そんな事をグルグル考えていると、K先輩に

「黙るなよ」

と言われました。
私が咄嗟に、「あ、ごめんなさい」と謝ると

「いや、謝らなくてもいいんだけど。何か悪い事言ったかと思って・・・」

と言われました。
まだ、私の喉元にRの事が引っかかっては居ましたが、重くなってしまった空気に絶えられず、

「先輩は、夏休みって何してるんですか?」

と私は話を変えて聞きました。

「あー、俺、バンド始めたんだ。」

とK先輩は言いました。
まるっきり初耳だったので、「え?そうなんですか?」と聞き返すと

「うん。だからその練習とか、後は部活かなぁ」

と言われました。
バンドと言われても、その当時の私はそういった事を何も知らず、ピンと来ませんでした。
でも、なんだかまた、K先輩が遠くなっていく。そんな気がしました。

「あ、そうそう。8月の花火の日って暇?」

唐突にK先輩に聞かれました。
その日は、バイトが夜まで入っている日だったのでそう伝えると

「あ、そうなんだ。その日、部活の連中と花火行こうって言っててさ」

と言われました。
私は何も考えず、「楽しんで来てくださいね」と答えました。

そして、その後「じゃぁ」と言ってすぐに電話を切り、家に戻りました。
家に戻ってからもやっぱり、Rを可愛いと言ったK先輩の言葉が引っかかっていました。
K先輩がRを好きになってしまったらどうしよう。
その不安を吹き消したくて、K先輩の「お前の方がいい」という言葉を、何度も頭の中でリピートしました。
例え、その場のお世辞であれ、Rよりも、私の方が可愛いと言ってくれたのだろうか?
単純に、顔のこと?
そう言えば、K先輩は久しぶりに私のことを「お前」と呼んでくれました。
たったそれだけでも、少しだけ距離が近くなれた気がして嬉しかったのです。
そのうち、だんだん私の妄想は大胆になっていきました。
「お前の方がいい」・・・「お前が好き」・・・な訳ないかぁ・・・
そんな事を考えている内に、Rに対する不安はどこかえ消えていきました。

それから2週間ほどして、8月のK先輩が行くと言っていた花火大会の日。
バイト先の窓から少しだけ見える花火とドーンドンと響く音を聞きながら、
K先輩は海に居るんだろうなぁ・・と考えていました。
そして、ふと
「花火の日って暇?」
K先輩にそう聞かれたという事が急に気になりだしました。

暇?と聞かれたからには、もしかしたら誘ってくれたのかもしれない。
でも、部活の人と行くって言ってたし。だったら誘われるハズもないし。
だけど、誘ってくれてたとしたら・・・・
私は、自分が何も考えずにバイトと答えたことを後悔しました。
歩いてそんなに掛からない距離に、今、K先輩が居る。
そう思うと、バイトをしている自分がなんだか悲しくなりました。

それでも、心のどこかで。
今日、バイトに出ている事をK先輩は知っていて。
もしかしたら、花火の後に来てくれるかもしれない。
帰りの電車で、会える可能性もあるかもしれない。
そんな淡い期待も少しあり、ドキドキしてもいました。


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「恋愛履歴」 亞乃 [MAIL]

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