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人物紹介


朝デート
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バスが目の前に来て、ドアが開きました。
乗り込む寸前、「なんで?」と私は聞き返しました。
すると、またK先輩は頭をクシャクシャと撫で、

「すぐ真っ赤になるもんなー」

と笑いました。
その瞬間、私はきっと「ジュンチャン」の意味を理解したのだと思います。
恥ずかしさのあまり、半ば怒ったフリをして挨拶もせずにバスに乗り込みました。
乗り込んだはいいものの、そのバスは前払いで。
お金を入れたはずが、バスは発車しません。
ドアの外にはK先輩が私を見送っています。
そこで、バスの運転手さんに「お金足りないよ」とぶっきらぼうに言われました。
どうやら、50円と5円を間違えていたようなのですが、そんな子供の初めてのお遣いのような間違いは、その時が始めての事でした。
恥ずかしさが倍増し、バスの車内を俯いて空いている席まで行き、外を見ると、K先輩が手を振っていました。

バスが走り出し、私はK先輩の家で何が起きたのかを懸命に思い出そうとしました。
頭の中はパニック状態で。
直後であるにも関わらず、どうしても、思い出せません。本当に覚えていなかったのです。
ただ、「ジュンちゃん」と言われた理由が、私が子供すぎるという意味であるという事だけは、なんとなく理解できていました。

家に帰ってからも、懸命に思い出そうと努力しました。
気付いたら床に仰向けになってた。次は起きる動作をしてた。
その前後は、まるっきり空白状態でした。そして、「ジュンちゃん」と言われた。

これはあくまでも想像ですが。
ふいに、私は先輩に押し倒された。
K先輩が、私に近づいたので、外の明かりの影になって暗く感じた。
でも、あまりにも私が硬直していたので、すぐに止めた。
そして、私は自分が横になっている理由も分からずに反射的に起き上がった。

そう考えると、本当に恥ずかしくてなりませんでした。

その日から、また私の頭はK先輩でいっぱいになりました。
2-3日後。K先輩から電話がありました。

「停学終ったんだけど、朝、早く来れる?」

朝デートのお誘いでした。

翌朝、待ち合わせの時間にA駅に行くバスに乗り込むと、K先輩は居ませんでした。
駅に着いて待っていると、次のバスからK先輩は相変わらずの歩き方で近づいてきました。
その表情が、ぶっきらぼうで怖くて、一瞬、ひるみました。
「おはようございます」と挨拶をすると、「待った?ごめんな」とだけ言い、どんどん歩いて行きます。

大体、私は朝、誰かと待ち合わせをした事など、一緒に通学する電車以外にありません。
O君の時も、いつも駅のホームで立ち話をするだけでした。
だから、K先輩と待ち合わせしても、時間になるまでちょっと立ち話をする程度だと思っていたのです。
予想外に、歩き出した先輩の後ろを、慌てて追いかけていくと、ふいにK先輩は振り返り、

「ミスドでいい?」

と聞かれました。
ああ、なるほど。お茶するんだ・・・
やっぱ、K先輩は違うなぁと、一人心の中で感心しきりでした。
制服姿で、しかも朝から他校の年上の男性とお茶。
それまでの私の生活には、想像も出来ないことでした。

店に入ると、何飲む?と聞かれ、私はグレープフルーツジュースを頼みました。
当り前のようにK先輩が支払いをしてくれて、私は慌てました。
「あの、お金・・・」
そう言ったのですが、「こんぐらいいいって」と受け取ってくれません。
席に着くと、K先輩はだるそうに椅子にもたれかかりました。
思わず私は、

「無理して来たんですか?」

と聞いてしまいました。
誘われて来たのは自分なのに、相手に「無理した?」と聞くのはかなり変ですが、なんだか自分が悪い事をしたような気がするぐらい、K先輩の表情が怖かったのです。
私が、おどおどしているのに気付いたのでしょうか。K先輩は

「あ、ごめんごめん。俺、朝、弱いんだわ」

とやっと笑ってくれました。
安堵した私は、「停学とけて良かったですね」と言いました。
K先輩は、停学になったこと自体がかなり不服だったようで、文句を言い出しました。
それを聞いて、元々が姉御肌である私は、

「何言ってんの。喧嘩すること自体が間違いなんだから」

と子供を叱るような口調になってしまいました。
すると、K先輩は

「なんだよっ、ジュンちゃんっ」

と逆襲してきました。
言われた瞬間に、私は急にあの日の事を思い出し、恥ずかしさが蘇ってきました。

「だから、ジュンちゃんって何なんですか?」

少し、ムキになって聞くと、先輩はヘラヘラ笑いながら

「あれじゃぁ〜なぁ〜」

と言い出しました。
そこで、私は思い切って

「あの・・・全く覚えてないんですけど・・・何かしました?」

と聞きました。「何かしました?」と言うのは、「私が何かしましたか?」という意味だったのですが、K先輩はそうはとらなかったようで

「いや、なんも」

と笑いながら言い、「そろそろ行こうか」と席を立ってしまいました。
消化不良のまま外に出て、駅までK先輩の後ろを歩いていると、振り返りながらK先輩が言いました。

「気にすんなって」

そう言って、私の頭をぽんっと叩きました。

「気にしますよっ」

とムクれた顔をして返すと、半笑いのような表情で遠くを見ながら


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咄嗟に「え?」と聞き返しましたが、それ以上は何も言ってくれません。
私は、今聞いた言葉が本当なのかどうか分からぬまま、どんどん歩くK先輩の後ろにくっついて、改札につきました。
そして、改札を抜けると、「またね」と言ってK先輩は自分のホームに行ってしまいました。
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「恋愛履歴」 亞乃 [MAIL]

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