停学
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殆ど毎日のバイトにも慣れた6月の中ごろ。 K先輩から、電話がありました。 出だしは、その後、会わないけどどうしてる?という内容だったと思います。 毎日が充実していた私は、気分的に昂揚していたのでしょう。 それと、その生活の中で少しK先輩への想いが薄れていたからなのでしょう。 その電話は、今までよりもスムーズに言葉が出てきました。
「K先輩は、部活がんばってます?」
と私が尋ねると、思いも寄らない言葉が返ってきました。
「俺、停学になっちゃってさ〜」
私は驚き、どうして?なんで?と聞き返しました。 K先輩の話によると、学校で喧嘩をして相手を殴ってしまったそうです。 毎日、家から出れずに暇で仕方が無いということでした。 そして、
「うちに、遊びに来ない?」
とK先輩は言いました。 翌日は、ちょうど土曜日でした。 その時点では、私は深く何も考えず、じゃ、明日行きますと言って電話を切りました。 電話を切ってからが大変でした。 K先輩が、喧嘩っ早いというのは、なんとなく知ってはいました。 停学というのは、その当時の私には大きな事件に思えたし、K先輩が落ち込んでいる感じだったのも心配でした。 と、同時に。家に遊びに行く。この事実が、突然、大変なことのような気がしてきました。
なんで、私を呼ぶんだろう? なんで、私を思い出したんだろう? どういうつもりなんだろう?
グルグルと色んな事が頭を駆け巡り、もしかして、もしかして・・・ と、期待と不安が入り混じった気分で、眠れぬ夜を過ごし、上の空で授業を受け、放課後になりました。 友達にK先輩の家に行くと話すと、「うわぁ〜、危険危険っ」とはやし立てられました。 でも、心のどこかで、そういう事もあるかもと思うと同時に、いや、決してそんな事はないよなぁ。。。と妙な確信がありました。
途中の駅で友達と別れ、バスに乗り、自分の家を通り過ぎ、K先輩の家の側のバス停に着きました。 その時になって初めて、同じバスに同じ中学出身で同じ高校の先輩である、K先輩の同級生の女の先輩が乗っていた事に気付きました。 きっと、その先輩は私が乗っていたことに、最初から気付いていたのでしょうが、私は周りを見る余裕などなかったのです。 その先輩にしてみたら、私が自分の家を通り越し、このバス停で降りる事は、かなり不自然だったと思います。 勿論、その先輩も、私とK先輩が中学の時に付き合っていた事を知っています。
何故か、私はK先輩の家に行く事が後ろめたいような感覚で、知られてはいけない気がしていました。 無駄な事と思いつつも、その女の先輩が降りて、少し距離があくまでバス停で待ちました。 でも、運悪く、その先輩は、K先輩の家の近所で、私はまるで尾行をする探偵のような状態で、その先輩の後ろを隠れながら歩いて行きました。
その先輩が、角を曲がるのを確認すると、私は急いでK先輩の家の階段を上がりました。 その時になって、急激に体全体が震えてきてしまい、なかなか呼び鈴を押すことが出来ませんでした。
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