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人物紹介


一年ぶりの再会
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部活を辞めてからの私の生活は、どんどん変っていきました。
この二年生から高校卒業後数年間まで、出会いや出来事が多くなり、色んな人との出来事が交差しています。
でも、変らずにこの後数年間、関わりつづけていたのは、やはりK先輩でした。

部室から荷物を引き上げた帰り道。
荷物が多い為、私は珍しくバスで帰宅する事にしました。
Rと通うようになって以来、数ヶ月ぶりで、A駅を利用しました。
A駅は、K先輩の利用する駅であり、バスは一年前に偶然会ったバスです。
バスが来る方向を見ながら、待っていると、靴のかかとを擦るような懐かしいあるき方をした制服姿の男性がやってきました。
K先輩でした。

入学して間もなくの朝のバスで会って以来、約一年振りの突然の再会に、私は驚きました。
K先輩も、「あっ」という表情をしていましたが、バスが直ぐに来たので会釈だけして、私はバスに乗り込みました。
前から数人目で乗った私は、一瞬、どうしたらいいのか迷いました。
K先輩を待って、立っているべきか。一緒に座れる二人掛けに座るべきか。
私は、一緒に座るなんて出来ないなぁと思い、それどころか会話だって出来ないだろうと勝手に決めて、前の方の一人掛けの席に座りました。

後から乗り込んできたK先輩は、席が後方に空いているにも関わらず、私の横に立ちました。
私は慌てて、

「先輩、席、後ろ空いてますよ?」

と挨拶もせずにいきなり言いました。
すると、K先輩は

「ああ、別にいいよ。偶然だな。ビックリしたよ」

と言いました。
私は、またもやトンチンカンな事を言ってしまったと恥ずかしくなりながら

「私も驚きました。すみません。後ろに私が座ってれば良かったですね」

と謝りました。K先輩は、少し笑いながら

「キミが降りたら座れるから」

と言いました。
先輩の口から出る「キミ」という発音には、やはり以前と同じく違和感を感じました。
「お前」という慣れなれしいような呼び方の方が、先輩らしいと思っていたのかもしれません。
K先輩は久しぶりに会った私を「お前」と気安く呼んで良いのか、迷ったように感じました。

「それ、部活の道具だろ?試合か何か?」

K先輩は、どうやら試合の為に私が持ち帰ってきたのだと思ったようでした。

「いえ。部活は辞めたんです」

そう答えると、「なんで?」と聞かれました。
私は、何故か肩を壊した事を言わず、

「顧問と喧嘩しちゃって」

と笑って答えました。
K先輩は、一瞬「え?」と言い、意外だという表情をしました。
先輩の中での私は、上手く話すこともできなかった中学の私で止まっています。
まさか、私が顧問と喧嘩をするようなキャラには思えなかったのでしょう。
だからこそ、私はわざと言ったのだと思います。
「K先輩に見せてた暗い私は、本来の私では無い」とアピールしたかったのです。

不思議そうに私を見ながらK先輩は、

「そんなことするんだ?」

と笑いました。そして、

「俺、今、部活なんだと思う?」

と質問してきました。
突然の質問に、私は全く想像すら出来ず、「いえ、わかんないです」と答えると

「今ね、吹奏楽部なんだよ。笑っちゃうだろ?」

と照れたように言いました。
私も思わず、K先輩のイメージから、そんな堅そうな部活に入っている事が想像も付かず、笑ってしまいました。

「え?じゃぁ、トランペットか何か吹いちゃってるんですか?」

私が聞き返すと、

「いや、歌ってるんだよ。コーラス」

と答えました。
それこそ、イメージに無さ過ぎます。
K先輩の声はどちらかと言えばガラガラ声で、私のイメージの中にあるコーラスとは縁遠い感じがしました。

「え?本当に?」

驚きを隠せずに聞き返すと、

「嘘だよ。俺がそんなんやる訳ないじゃん。信じた?」

と言われ、私は自分がからかわれた事に気付きました。
すっかり信じてしまった自分が恥ずかしくなり、

「ひどーっ からかわないで下さいよ」

自分でも驚くほど親しげな言葉が口から出てしまいました。
と、同時に恥ずかしすぎて、顔を余計に上げられなくなりました。
すると、K先輩は

「なに、そんなんで真っ赤になってんの?」

と、また楽しそうに笑って言いました。
私が、言葉が出ずにひたすら下を向いたままの状態でいると、

「怒っちゃった?ごめんごめん。言い過ぎたかなぁ」

とK先輩が謝り出してしまいました。
私が慌てて、「怒ってないです」と言うと安心したように

「本当は、ドラムやってんだ」

と教えてくれました。
そして、丁寧な事に「ドラムって知ってる?」とまで聞かれました。

「小学校の時に、ちょっと叩いた事あります」

と答えると、存在はお互い知りませんでしたがK先輩と私は同じ小学校の卒業生で、先輩もそのドラムもどきの事は知っていたらしく、

「いや、あんなんじゃなくて。もっと沢山、叩くものがくっついてるヤツ」

と言いました。
K先輩が、「叩くものが」という表現をしたのは、私が分からないと思って、わざと優しい言葉を選んだのだと思います。
そのことで、また私は自分の無知さに恥ずかしさが込み上げてきてしまいました。
そして、またどうやら私の顔が赤くなってしまったらしく、

「俺、またなんか悪い事言った?」

とK先輩に聞かれてしまいました。

「いえ。全然、大丈夫です。気にしないでください」

どこまでもK先輩に気を使わせてしまう自分を、本当に申し訳無いと思いました。
すると、K先輩は、

「俺さぁ、どうも言葉遣いが悪いらしくて、傷つけちゃうみたいなんだよなぁ」

とぼやくように言いました。
それを聞いて私は、ああ、先輩は高校で他の女の人に、そんな風に言われたりしてるんだろうなぁ・・・と想像し、その先輩と同じ高校である見知らぬ人たちにを、羨ましく思いました。

「そんな事、全然無いです。先輩は優しいですっ」

そんな事を想像していたからでしょうか。
咄嗟に口をついて出てしまった言葉に、私自身、びっくりしましたが、K先輩も驚いたように

「そんな、強く言わなくても・・・」

と言い、それでも嬉しいと思ってくれたのか笑ってくれました。

そして、バスが私の家に付き、私が

「じゃぁ、気をつけて帰ってください」

と言うと、

「それは俺の台詞だろ?でも、すぐそこだもんな」

と笑われてしまいました。
そして、私が席を立つと

「じゃ、またね」

と言ってくれました。

そして、案の定というか。
3年前、K先輩に呼び出されて告白された時を再現するかのように、重い道具を持った私は、バスを降りる時によろけて躓きました。
幸い、転びはしなかったものの、荷物を料金箱に思い切りぶつけ、確実にそれをK先輩に見られたはずです。
恥ずかしさで顔を上げられないまま、私はバス停を降りると、バスが行き過ぎるのを待って家に帰りました。

たった10分前後でしたが、私のK先輩熱に、再び火が点きました。
ただ、以前にも増して上手く喋れず、ドン臭さだけを見せてしまったようで、K先輩が私をどう思ったのかが、とても気になっていました。

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「恋愛履歴」 亞乃 [MAIL]

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