誕生日
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O君の何が嫌だったとか、不満だったとか。 そんなハッキリとした理由などなかったのかもしれません。 でも、デートの翌朝、いつものように爽やかな笑顔で手を上げるO君を見た瞬間、 この人のことは、好きじゃない。 そう思いました。
恋愛経験ほぼゼロに等しい段階での私が、相手に何かを求めたりできる状態では無かったのですが。 というより、その頃の私は、自分の意志をハッキリと人に伝える事が出来ない性格でもありました。 強く何かをどうしたいという想いを、自分の中ですら持つ事が無く。 だからと言って、何もかも他人の言う通りになれるほど、我が弱い訳でも無く。 いつでもどこでも、何をしていても。何かが上手くいかず、心に突っかかる何かを感じていました。 小学校から中学の途中までは、どちらかと言えば我が強く主張も強かった自分とは、全くかけ離れた状況に陥っていました。 いつでも、少し宙に浮いているような。 自分の事が自分でないような。そんな感覚でした。
O君にそれまで、徐々に惹かれていたはずが、二度目のデートで何かを嫌だと感じたのでしょう。 単純に書いてしまえば、あまりにもくだらない理由になります。
デートの計画性が全く無く、ただ歩くだけで疲れてしまった。
多分、これだけの事でした。 これだけの事に、私は半ば苛立ちをおぼえ、嫌になったのです。 自分の意志をはっきり持っていないにも関わらず、私は相手に引っ張ってくれる事を望んでいたのだと思います。 自分が意思表示が出来ないから、余計にそういう相手を望んだのかもしれません。 歩きつかれた私に気付いてくれることを、望んでいたのだと思います。 もっとデートらしく、観光スポットに行くとか。お茶するとか。 そういう事を、率先して連れてってくれる事を望んでいたのだと思います。
今、考えたら、その頃の普通の高校生のデートなんて、その程度だったのかもしれません。 ただ、一緒に歩くだけで楽しい。それが普通だったのかもしれません。 でも、私には身近に同級生の男友達が殆ど居なくて。 周りから聞く話は、殆どが年上の彼氏の話で。 高校一年生の男の子の実情など、私は全然知りませんでした。 その時は、何が自分で嫌だったのか分からなかったのですが、今ならハッキリ分かります。 私が求めていたのは、エスコートしてくれる大人の男性だったのです。
と同時に。これも、後から気付いた事ですが。 私の中で、初恋の相手であったK先輩が全てになっていました。 理想の男性像が、K先輩になってしまっていました。 だから、O君の中にK先輩を探し、そして、この人は違うと。そう思ったのです。
私は、O君と付き合っているつもりはありませんでした。 言葉でハッキリと言われない限り、友達以上になっていると思う事は出来ませんでした。 でも、もしかしたらO君は、既に付き合ってると考えていたのかもしれません。 私が二度目のデート以来、O君への気持ちが冷めるばかりなのに対し、O君は徐々に積極的になっていきました。 断っていた遅い時間の電話も掛かってくる事があり、私はその度に親にビクビクしていました。 朝、駅で雨の日以外、ほぼ毎日私を待っているようになりました。
それは、私に好意を持ってくれたO君の行動なのでしょうが、私は困りました。 毎回、親の顔色を見て神経を遣う電話に、疲れました。 かと言って、電話をしないでくれとは、言い出せませんでした。 朝、待っていてくれても私がO君と居る事で、時にはRが電車で一人になってしまう事もあり、彼女が気を遣って遠慮してくれることなどが、すごく重荷でした。 待っていてくれなくていいから。とは、やはり言い出せませんでした。
今でも、何かを断るということが、私はとても苦手です。 ましてや、相手が好意でしてくれている事を断るのは、傷つけるようで一番嫌な事でした。 今では、それでもやんわりと言えるようになりましたが、その頃の私はまだその方法を知りませんでした。
次第に、O君のその好意が疎ましく感じられるようになっていきました。 断れない自分の性格で自分の首を締めていき、その苦痛は徐々にO君の方へ向き始めました。 とても、極端な性格でした。 嫌ならば、捨ててしまえ。切ってしまえ。見ないようにしてしまえ。 そういう考えしか出来ない性格でした。 大体、親が厳しすぎて、私は自由に恋愛をできる状況に無い。 そう思いました。だから、恋人なんて作れない。 親の事が、その頃の私には何よりも大きい理由でした。
7月の中ごろ。O君の誕生日でした。 私は、覚えていませんが、何かプレゼントを買いました。 その箱に、手紙を入れました。
今まで、親切にしてくれたお礼と、O君とは付き合えないこと。 もう、あまり会わない方がいいというようなこと。
具体的な理由は一切書かず、一方的な言わばお別れの手紙を書きました。 それを、その誕生日の朝、同じように駅で待っていたO君に渡しました。
その日を境に、O君と話す事は二度と無くなりました。
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