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人物紹介


嘘つき電話
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O君から好きとも付き合おうとも言われないまま、なんとなく2-3週間が過ぎていきました。
その間、O君の方が積極的に声を掛けてくれたり、駅で待っていてくれたりした事で、少しずつ二人の距離は縮まっていったように思います。

出会いの時よりも親しくなれたのですから、以前より会話も弾みそうなものですが、私の場合は、その逆でした。
K先輩の時ほどではありませんでしたが、やはり、私はO君の前で緊張するようになっていきました。
私の緊張の度合いは、恋愛感情と比例していたのかもしれません。

好きな相手には、毎日でも会いたかったし、声も聞きたいと思っていた頃でした。
でも、私の家は厳しかったので、電話を掛けて貰う事すら出来ませんでした。
時と場合によっては、取り繋いでもらえない事もあったので、掛けて来て貰っても、相手の気分を害してしまうのが嫌だったのです。
なので、O君には親が厳しいので、電話を遅くには掛けないで欲しいと御願いしていました。
O君はバイトをしていたので、掛けられる時間がどうしても遅くなる事から、掛かってくる事はありませんでした。

ある日、両親の帰宅が遅い日がありました。
滅多に無い、O君に電話ができるチャンスでした。
が、いざ掛けようとすると、どんどん上がる心拍数と共に、手が震え出しました。

一体、何て言って電話を掛ければいいんだろう?

何故か、そんな事を一生懸命考えました。
ただ声が聞きたかった。それだけの理由で電話をして良い相手とは思えなかったのだと思います。
必要以上に、自分の立場というものを考えすぎていました。
まだ、彼女になった訳でも無いのに、馴れ馴れしい事をして嫌われたく無い。
そう思っていました。
でも、声が聞きたいという衝動が抑えきれませんでした。

そして、電話を掛けた私は嘘を付きました。

「今ね、Rが遊びに来てて、電話しなよって言われて・・・」

勿論、Rなど居ません。私は電話をした口実を作ったのです。
O君は驚いたように、言いました。

「こんな遅い時間に来てるの?」

言われて初めて、その時間が夜9時近いことに気付きました。
電話を掛けようと思い立ったのは、まだ7時台のはずでした。
それ程、私は長い時間、電話の前で悩みつづけていたのです。
O君の不信そうな声に、私はたじろぎました。嘘を付いた自分が嫌でした。
それでも、演技を続け、今帰るところだと言いました。
電話口で、「じゃぁ、また明日ね」と一人芝居を続けました。

O君は、暗い夜道を帰る居るはずも無いRのことを、電話の向こうで心配していました。
私は、電話なんかしなきゃ良かった。嘘なんかつかなきゃ良かった。
そんな事を考えて後悔で頭がいっぱいになり、何も言葉が出てこなくなりました。
それに、O君が気づいたかどうかは分かりませんが、

「いや、でも、電話くれて嬉しいよ。」

と言ってくれました。
「今日は、親は居ないの?」と気遣いの言葉も掛けてくれました。
優しいO君の言葉に、ますます私は、自分の不甲斐なさが嫌になっていきました。
途中、妹さんが部屋に呼びに来たらしく、O君は照れたように笑いながら

「うちの妹、うるせーんだよ」

と言いました。そして

「タイミング良かったよ。俺、ついさっき帰ってきたところだったんだ。」

と言いました。
O君はバイトから帰ってきたばかりで、これから夕飯だとのことでした。
なので、私は

「それじゃぁ、御飯食べて」

と電話を切ろうとしました。
O君は、それでも

「いや、いいんだよ」

と電話を切らずに居てくれようとしました。
その後、何を話したのか、よく覚えていません。
ただ、印象に残っているのは

「本当に、Rちゃんと仲良しなんだね」

という一言でした。
私は、自分が嘘をついた罪悪感と、ぐずぐず電話の前で迷っているうちに時間が過ぎ、もうすぐ家に両親が帰ってくるかもしれないという不安で、上の空だったのだと思います。
多分、掛けてから10分程度の会話だったと思います。
早く電話を切りたくなった私は、

「そろそろ、御飯食べないと冷めちゃうよ」

と言いました。
O君は「そうだねぇ」と言いつつも、

「うーん。せっかく電話貰ったのになぁ。もうちょっと平気だよ」

と、なかなか電話を切ろうとしませんでした。
それどころか、

「電話代掛かるよね?掛け直そうか?」

とまで気遣ってくれました。
それからまた10分ぐらい、O君のバイトの話などを聞いていたのだと思います。
その間中、私は、時計に目が釘付け状態でした。
外の車の音に耳を澄まし、いつでも電話が切れるようにと神経と尖らせていました。
それほど、私は親に電話をしているのを見付かる事が怖かったのです。
怖いというより、何か言われる事が面倒だったのかもしれません。
それに、こうして話している間にも、親や、親の知人から電話が入っていたりするかもしれないと思うと、気が気ではありませんでした。

そして、私はまた、嘘を付きました。

「ごめん、なんか姉ちゃんが電話使うっていうから」

そう言うと、O君は、「あ、ごめんごめん」と言いました。
嘘をついたことで、謝らせてしまいました。

私は正直に、親が帰ってくるので長電話が出来ないとは、言えませんでした。
そこまで、気を遣わなければならない親だと知られたくなかったのかもしれません。
私は、自分が他の家の子たちと同じでは無いと思っていました。
家での自分を、好きな人に知られたくないと思っていました。

「じゃぁ、また明日の朝ね」

と言って電話を切った時、私は電話を切れるという妙な安堵感と共に、自分から声が聞きたくて電話しといて、申し訳無いという気持ちとが入り混じっていました。

嘘を付いた事がある人なら、分かるかもしれませんが。
言葉では表現しきれないような後ろめたさのようなものが、ずっと心に貼り付いてしまいます。
まして、他の第三者の名前を出してまでの嘘を付いてしまった後、例えそれがバレるはずの無い事であっても、絶えず会話に神経を尖らせる事になります。
それは、私が小心者だったからなのかもしれませんが。

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それだけを比べたら、私はO君よりもずっと恵まれた生活環境でした。
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「恋愛履歴」 亞乃 [MAIL]

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