通学
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私の家から通学する電車に乗るには、二通りの行き方がありました。 二つの駅のほぼ中間に住んでいたので、高校生になった最初の頃は、K先輩が利用するのと同じ駅であるA駅まで、自転車で通っていました。 Rとは、時間と車両を決めて、A駅の一つ先のB駅から一緒に通学していました。
ある日、部活から帰ってくると、自転車が無くなっていました。 その頃はまだ、自転車の登録番号など無かったように思います。 自転車置き場に毎朝置いていたのですが、鍵を外し忘れたことで盗まれてしまっていたのです。 親に物凄く怒られました。
元々、私は公立の高校へ入るように親に言われていました。 経済的に私立はキツイという事だったのでしょう。 私は、自転車の代わりにバス代をくれとは、親に言えませんでした。 それからは、しばらくの間、毎朝駅まで30分ぐらいの道のりを歩いて通学する事になりました。 今までよりも早い時間に家を出てバス通りを歩く私を、もしかしたらK先輩がバスから見るかもしれない。 見られるのは恥ずかしい。そんな事を考えていた事もあります。 そのうち、Rとより親しくなり、私はRの家まで15分ほど歩き、そこから一緒にB駅までの残り15分を一緒に通学することにしました。
O君は、いつもA駅から友達と電車に乗ってきていました。 O君とは続かない。そう思い込んでいた私は、その日の朝、Rと歩きながら昨日の事を報告し、出来れば車両を変えようかと思っていました。 でも、他の友達もB駅から合流して一緒に通学していたので、なかなか言い出し辛いまま、駅につきました。
その駅は電車の先頭車両のところ、ホームの端の一ヶ所にしか改札が無い駅でした。 ホームの数段の階段を上がって、電車が来る方向に目を向けると、向こうからO君が歩いてきます。 目が合うと、O君は手を上げて、手招きをしました。 Rに行って来なと言われるがままに、O君のところへ行き
「なに?どうしたの?」
と聞きました。
「一緒に行こうかと思って家出たんだけどさ、ギリギリで焦ったよ」
O君は、息を切らしながら言いました。 どうやら、O君は、私に会う為にこの駅まで歩いてきたらしく。 線路沿いの長い一本道で、私たちの後姿を先のほうに見たけれど、間に合いそうに無いので、改札を通らずフェンスを乗り越えてホームに入ったとの事でした。
私は、そのフェンスを乗り越えて来てしまったという行動が、あまりにも無茶で可笑しくなりました。 「まじ、焦ったよ」と言って笑うO君の屈託の無さに、それまで重かった気持ちが消え、軽く言葉が出てきました。
「そんなに無理しなくても。昨日会ったばっかりだし、電車で会えたじゃん?」
私がそう言うと、
「いや、そうなんだけどさ。電車だと他の連中居るから話せ無いじゃん?」
とO君は答えました。 わざわざ、私と話す時間を作るためにO君が来てくれたのだということを知り、素直に嬉しいと思いました。 結局、二人で話せたのは2-3分程度だったと思います。 すぐに電車が来てしまい、同じ車両に乗り込んだ後はそれぞれの友達の所。いつもの定位置に。 O君は、いつもと違う行動をした事で、友達に冷やかされているようでした。 私は私で、一つ前のA駅から乗ってきている友達に、朝からラブラブ〜などと冷やかされました。
O君とは、まだこれから付き合うとも何とも。そういう話はしていません。 冷やかされて嬉しかった反面、それは実感の伴わないものでした。
その頃、O君は近所のコンビニでバイトをしていて、私は私で毎日部活に出ていたので帰宅時間が違い、会えるのは朝の電車だけでした。 それからも、数回、O君は駅に来てくれた事もありましたが、大概の日はそれぞれの友達と同じ車両で挨拶をする程度でした。
ある日、部活が無い土曜日に友達と一緒に電車に乗り込むと、そこにO君が一人で居ました。 私の学校の駅は、O君が通う高校の乗り換え駅でした。 最初、驚いて軽く頭を下げるだけで、そのまま友達と一緒に私は居ました。 やはり、友達の手前、恥ずかしかったというのもありました。 一駅過ぎた頃、O君の方を見ると手招きをされました。
私は、O君のこの手招きが好きでした。 やはり、男の兄弟が居ないせいでしょうか。なんとなく、同じ歳でもその仕草に兄のような年上の男性の雰囲気を感じたのだと思います。
学校では、紹介してくれた友達から話を聞いた子などに、その後の進展などでからかわれ、冷かされていました。 周りからそうはやし立てられると、なんとなくその気になっていく。 そんな事も手伝って、私は徐々にO君を好きになっていきました。 会えば、心臓がドキドキしました。 顔も、声も、仕草も。少しずつ好きになっていきました。 午後の穏やかな日差しが当たる電車の扉の前で二人で話をした記憶は、今でも強く残っています。
好きになっていくと、どうも私は悪いクセが出てくる性格でした。 そのままの自分で居られないというか。 半ば、自分自身を演じてしまうというか。 きっと、よく見てもらいたいからなのでしょうが。 後で思えば、つく必要の無い嘘を付いてしまう事もありました。
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