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人物紹介


光と影
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同じ中学出身のRと一緒に通学し出して、数日で、私はその事に気付いていました。
毎朝同じ電車の同じ車両に乗ってくる男子校の生徒の大半が、私達の方を見ていました。
特に、O君達隣中学出身の男子校生は、その態度があからさまでした。
視線を感じて振り返って見ても、私が彼らと目が合う事はありませんでした。
皆がみんな。私の隣のRを見ていたのです。

変な言い方かもしれませんが、私は綺麗なRが自慢でした。
Rが皆の注目を集める事に対し、私は当然だと思っていました。
本当に綺麗な子でした。
なので、O君の

「Rちゃんて、すげー可愛いよね」

という言葉を聞いた時、ショックよりもやっぱり。という気持ちでした。
私は、そのO君の言葉に対し、

「うん。可愛いよね。O君達も、いつも見てるでしょ?」

と返しました。
嫌味のつもりも無く、仕方ないよなという気持ちで出てきた言葉でした。
それに対し、O君は突然言い訳めいた口調になり

「いや、亜乃ちゃんも可愛いよ。」

と言ってくれました。でも、私は別に敗北感で言ったつもりもなかったので、

「いいんだって。女から見ても、Rは本当に綺麗だもん。」

と答えました。
O君は、自分の失言を誤解されたく無いといった風に

「あの子、目立つもんなぁ。俺の友達がさぁ、Rちゃんに惚れちゃっててさぁ」

と弁解をし始めました。
私の中で、O君に対する疑いに似た感情が沸いてきていました。

この人も、多分、他の友達と同じく、Rを目当てに電車に乗ってた一人なんだ。
なのに、なんでRでは無く、私との紹介の話を受けたんだろう?

私は笑いながら、O君に聞きました。

「いいっていいって。O君だって、Rの事いいなぁって思ってたんでしょ?」

別段、好きになった訳でも無く、友達の付き合いで会っただけ。
それは、お互い様だと私は思っていたので、その答えがYESであっても気にしなかったと思います。
O君は、私の言葉に対し、

「あー、最初はね。でも、Rちゃんってお高い感じがするじゃん?
 だから、俺は亜乃ちゃんの方が、ずっといいなぁって思うよ」

と答えてくれました。
その言葉は、自分の失言をフォローする為だったのかもしれないし、本音だったのかもしれません。
でも、その時の私の耳に残ってしまったのは、「最初はね」の一言でした。

やっぱり、そうなんじゃん。

という気持ちを飲み込み、私は笑ってO君に「ありがとう」とだけ言いました。

O君の家は、私の家よりもRの家に近く、待ち合わせもRの家の近所でした。
二人でRの家の側を通った時に、私はわざわざ「ここが、Rの家なんだよ」と教えたりもしました。
O君の気遣いからか、「ふ〜ん」と言ったきり、別に興味も無いような素振りを見せてはくれました。
そして、しばらく歩くとO君の家の側だったらしく

「あそこが、俺の家なんだよ」

と教えてくれました。
好きな人の家だったら、私はそれだけで嬉しかったのだと思います。
でも、私の心は、なんとも言えないモヤモヤした感情が渦巻いていました。
再び、湿ったカーディガンとスカートが気になりだし、早く帰りたいと思いはじめていました。
そこで、「じゃぁ」と言って別れようとすると、

「いや、送ってくよ」

とO君は言いました。
断ると、

「男が送ってくのは、当然じゃんか。俺が送られてどうするよ」

と笑いながら言って、私たちは、私の家まであと数分のところまで一緒に歩きました。
O君は、別れ際

「また、明日の朝ね。」

と言って元来た道を、戻っていきました。
その後姿をしばらく見送った後、私は家まで駆け足で急いで帰りました。

O君との初デートは、ほんの2時間程度歩き続けるだけのものでした。

家に着くと、両親が帰って来ていました。
私は、勝手に着ていったカーディガンを母親に見付からないように、庭でこっそり脱ぎ、家に入りました。
そして、しばらくしてから、親の目を盗んで庭からカーディガンを持ち、タンスに仕舞いました。

そんな自分の行動自体が、すごく惨めに感じました。
Rの事を、本当は好きだったかもしれない男と会う為に、親にビクつきながら会いに行ったなんてバカみたい。
何も自由にならないこの家も、O君も嫌だと、急にイライラし始めました。

それまで。
綺麗なRと一緒に居る事に、何も感じていなかった私は、きっと異性を意識などしていなかったのだと思います。
かと言って、Rに対する嫉妬心が沸き起こるような事もありませんでした。
ただ、なんとなく寂しい。そんな気持ちで一杯でした。

私は何も考えずにRと一緒に居るけれど、周りが見てるのはいつもRで。
そのすぐ隣に居る私は、Rの影になって、誰の目にも見えてないんだろうな。

そんな事を、始めて意識させられた初デートでした。
それは、妬みとか卑屈さとか、そういう事ではなく、仕方の無いことだと素直に感じた事でした。
別に、男子校生にモテたいとか、見られたいとか。そんな意識も全く無い、中学から何も変らぬ私だったから。
Rが誰もが認めざるを得ないほどに、綺麗だったから。
そう思えたのだと思います。

O君は、その夜、電話をくれました。

「ちゃんと、帰れた?」

と言って。
その優しさは、嘘ではなく彼本来の優しさであり、異性として意識して好きになるには、その頃の私には十分すぎるものでした。
多分、Rの話が無ければ。

それが私のプライドなのかどうかは、分かりませんが。
私を見ていない人を、私は好きになれるわけが無いと思っていました。
だから、O君とのことは、続く事は無いと。
O君も私も、義理で会ってみただけ。
二度と二人で会う事は無いんだろうなと思い込んでいました。

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「恋愛履歴」 亞乃 [MAIL]

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