初デート
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O君は、その電話で私を下の名前「亜乃ちゃん」と呼びました。 正直、やはり呼ばれなれていないせいか、不快感はあったものの、思ったより抵抗なく、その呼び名を私は受け入れました。 私はと言えば、やはり下の名前で呼ぶことは出来ず、最後まで名字のまま。O君と呼び続けていました。
紹介されてから始めての休日。私は、O君と会う約束をしました。 梅雨に入ろうかという頃の曇り空で、少し肌寒い日でした。 高校に入ったと言っても、厳しい女子高で部活が忙しい毎日を送っていた私は、やはり中学の時と変らぬ生活を送っていました。 相変わらず、休日には家に居て、特に友達と出かける事もありませんでした。 少しのお小遣いを貰ってはいましたが、洋服を自由に買えるほどではありません。 何を着て行けばいいのか、物凄く悩みました。
両親が出かけた後、私は母親のタンスを漁り、可愛らしい配色のカーディガンをこっそり借りて行くことにしました。 が、出かけようかという時になって、そのカーディガンに汚れがある事に気付きました。
なんと言っても、私にとって、男性とデートするのは始めての事です。 たった少しの汚れが気になり、浴室でそのカーディガンを洗い始めました。 今にも雨が降り出しそうな天気の日に、脱水機にかけられない服が簡単に乾くはずもなく。 殆ど乾かぬまま、とりあえず私は友達であるRの家に行きました。 Rにも手伝ってもらって、生乾き程度にまでした時点で、既に約束の時間は過ぎていました。
急いで待ち合わせの場所に行くと、O君は既に待っていました。 遅れたことを謝り、とりあえず、近所を歩く事にしました。 私は、生乾きのカーディガンの水分が、だんだんと下に落ちてきて、スカートにその水が染みていくのを気にしていました。 初めての男性とのデートだというのに、私の心臓は全然ドキドキしませんでした。 心の中で、何やってんだろう?早く帰りたいなどと思っていました。
その頃のお互いの家の近所には、山があり、その道を2人で歩きながら話をしました。 途中、ぬかるんだ坂で、先に降りたO君が手を差し出してくれました。 私は、一瞬ためらいながらも手を繋いでもらった時、私の心臓はようやく、ドキドキし始めました。 そのO君のとても自然な行動に、男の人なんだなぁと好意を持った瞬間でした。
話を聞くと、O君には妹が居て、お父さんが居ないということでした。 彼は、会ってもやはり私を「亜乃ちゃん」と呼びました。 その名前の呼び方について、私は聞いてみました。 O君は、
「だって、名字じゃぁ、なんかおかしく無い?」
とあっさり答えてくれました。 考えてみたら、クラスメイトであれば名字を呼び捨てでも渾名として自然ですが、全く違う学校同士で初対面で、渾名で呼び合う事の方が不自然なのかもしれません。 私は始め、全くの他人ということで、それじゃなくても男性が苦手だった事もあり、かなりバリアをはっていた状態でした。 でも、O君のその気取らない自然な態度に、肩の力が抜けていきました。 馴れ馴れしいと感じたO君の態度ですら、徐々にそれを親近感だと思えるようになっていきました。
二人の会話は、当然のようにお互いが知っている友達の話になりました。 どちらかと言えば、話しているのは殆どがO君で、私はそれを聞いている状態でしたが、不思議と苦痛を感じませんでした。 紹介してくれた女の子である友達の、中学時代の話。 毎朝同じ電車で会う、O君と一緒に通学している友達の話。 そして、私が一緒に通学している友達の話になった時。
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