争奪戦
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F子がN君に誕生日プレゼントを渡したことで、A美にとってライバルが新たに一人加わりました。 F子は、N君に対して私から見て積極的なA美より、更に上を行く熱狂振りでした。 N君と私はクラスが近く、同じ階でしたが、違う階のF子を休み時間でもよく見かけました。 N君が通るときゃぁきゃぁ騒ぎ、それは部活中でも同じ状態でした。
F子にも、A美がライバルだということは、すぐに分かったようでした。 N君を見に体育館にF子が来ていると、A美はわざとN君に話し掛け、それはまるで見せ付けているかのように感じました。 私は、なんだかヒートアップしていく2人の戦いに、ただただ圧倒されていました。 どうやら、A美にとっては私よりもF子には絶対に負けたくないっ!という気持ちが大きかったようで、私に対してもF子を蹴散らす協力を求めてくるようになりました。
そんな事が一ヶ月以上続き、N君にとっても、モテるのは嬉しくないはずはありませんが、2人の間に立たされたような状態に困惑している様子でした。 N君が、F子をどう思っているのかを知りたがったA美に頼まれ、私はわざとN君をからかたりもしました。 私が「F子が来てるよ〜」などとN君に言うと、彼は「知らねーよっ」と嫌そうに答え、それを聞いたA美が喜ぶ。 最初、A美は「N君は迷惑がってるのにさぁ、F子しつこいよね。」と嬉しそうでしたが、N君は次第に、A美のことも煙たがるような素振りを見せ始めました。 A美が近づくと逃げるかのように、他の男子部員の中へ入っていったり、別のメニューで練習している私たちの方へ来るようになっていきました。
そんなある日。 F子がとうとうN君に告白をし、振られたという噂が入ってきました。 部活前の廊下で、F子が泣いているのをA美のクラスの子が見て、報告したようでした。 振られた理由は、「他に好きな子がいる」ということだったらしく。 その後、F子が私のクラスを覗きに来た事がありました。 F子と前の学年で同じクラスだった子が廊下に呼ばれ、少し話をしてから私のところへ来ました。
どうやら、振られた時にF子は、かなりしつこくN君に食い下がったようで、 「好きな子っていうのは、同じクラスの子?部活の子?」 なども聞いたそうです。 そこでN君が「部活」と答えたらしく、「それはA美?」と更に聞いた所、「違う」と言ったらしく、それで私かもしれないとF子は思って来たようでした。 でも、だからと言って私は自分の事をN君が言ってるとは、あまり思えませんでした。 F子の手前、嘘をついたということもあるし。 でも、少しだけ、可能性があるような。そんな気持ちもありました。
A美の耳に入ったのは、「同じ部活に好きな子がいる」ということだけで、それがA美では無いと言ったことまでは知らないようでした。 F子が振られたことによって、またA美のライバル心は私に向ってくるようになりました。 ただ、前と少し違ったのは、自分が多少N君に避けられている感じがしたのでしょう。 弱気な感じで、「きっと亜乃のことが好きなんだよ」という事が多くなりました。 時には、「今日もN君と話せてよかったねぇ」などと、半分嫌味が混じったような事を言われる事もありました。
あまりにも、A美が毎日そんな事を繰返し言うので、私の方が逆にN君を、余計に意識してしまうようになりました。 F子が振られる少し前に、一人で渡すのは嫌だからとA美に言われ、K先輩の時と同じように質問の手紙をN君に一緒に渡した事がありました。 その手紙を渡すという事は、その頃の中学では「好き」と言ってるのと同じようなことであり、私がN君を好きだということは、そこでバレているも同然でした。 少なくとも、N君は3人の女子に好かれ、そのうちのF子は振られ、A美は避けられ。 あまり変らぬ態度をとられているのは、私だけ。 A美は次第に、私に「N君に告白しちゃいなよ」とせっつくようになっていきました。
口では、半ば私とN君がくっつけば諦めるような事を言っていたA美ですが、私は嫌がらせを受けた過去が身に沁みていました。 だから、A美の言葉をそのままに受け取ることは出来ません。 一度、誰かに嫌がらせを受けた事がある人なら、きっと分かるかと思います。 その相手に対して、何も悪い事も弱い立場になっている訳でも無いにも関わらず、何故か対等になることは出来なくなるのです。 私は、知らず知らずの内に、心のどこかで恐怖心に似た警戒心を常に持つようになり、下手に出てA美の機嫌を見るような、そんな状態になっていたのです。
もしも。万が一、N君の私の告白への返事がYESだった場合どうなるんだろう? N君と付き合える事になったとして、その喜びよりも、A美とのその後の怖さを方が先にありました。 のらりくらりをA美の要求をかわす私に、A美はしびれを切らせたようでした。
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