理由
....................................................................................................................................................................
|
A美からの伝言で、別れを知ってから、私は何度かK先輩に電話しようと思いました。 悲しいとか悔しいとか、そんな感情の前に、「何で?」という想いが強かったのです。 K先輩に振られる原因は、いくらだって思いつきました。 話も出来ないような自分では、振られて当然。 高校生になって気持ちが変わったというのも納得出来ます。
でも、K先輩は卒業式の時も、あの時も、「連絡するから」と言ってくれました。 「待ってて」と言ってくれました。 思い出せば、K先輩はいつでも優しい声でした。 結局、K先輩が本当はどんな性格で、どんな人なのか知る事が出来ずにいたけれど、優しい人だということだけは、なんとなく嘘では無いと感じていました。 優しい人だから、私を必要以上に年下の子供に見ていたから、だから本当の気持ちを言う事が出来ずにいたのだろうか? その優しさの結果は、返って残酷で、とてもズルい気もするけれど。 最後まで、私を傷つけたくなかったのかもしれない。
そんな事を日々繰返し考え、K先輩の気持ちを想像するだけで、本当の答えが分からないことが、何より苦しかったのです。 でも、振られた立場としては、電話をするのはしつこいと想われそうで、出来ませんでした。 そんな風に2週間過ぎた頃。 K先輩が、また、学校へ来ていました。
部活が終わり、皆が遊び始めた時、K先輩の姿が体育館の外に現れました。 私は、咄嗟に無視して、部室に逃げるように入ってしまいました。 一人先に着替えを済ませた私が、部室から出るに出られずに困っていると、A美が入ってきました。
「K先輩が呼んでるよ」
そう言われ、思わず
「なんで?」
とA美に聞いても仕方無いことを聞き返してしまいました。
「なんか、話があるって。外で待ってるから、早く行きな」
A美の少し強い口調に押されるように、私は部室を出ました。 体育館の出入り口を見回しましたが、姿は見えません。 本当の理由を聞きたくていたのに、いざとなると何をどう聞いて良いのか分かりませんでした。 一体、何を言われるんだろう? 怖さ半分、興味半分というような変な感覚で体育館を出て、そのまま校舎の方へ行こうとすると、後ろから名字を呼ばれました。 ビクっとして振り返ると、体育館脇の水飲み場の暗がりに、K先輩が居ました。
「あ・・・驚かせちゃった?ごめんな。」
私はいいえと首を振りながら、K先輩の側に行きました。 暗がりで、K先輩と一緒に居るというだけで、私はドキドキしました。 もう、振られてしまっているというのに、何かを期待するような自分が居ました。
「呼び出してごめん」
K先輩は、また謝りました。 私は、また声を出さずにいいえと首を振り、K先輩が何かを言いかけたとき、部活の男子がそこへやってきました。 私たちも驚きましたが、その男子も驚いたようで、まずい所へ来ちゃったというように、また体育館へ戻って行きました。 私は、振られる瞬間を人に見られたみたいで、すごく嫌な気分になりました。 そこで、K先輩が、外へ出ようと言ったので外へ出ました。
「この間は、ごめんな」
K先輩は、また謝りました。そんなに謝られても・・・と心の中で想いながら、私は首を振り、
「あの・・・A美から聞きましたから」
と言いました。 K先輩は、どうしてそうなったのかを、私が聞く前に話してくれました。
これからも、あの時点では付き合っていこうという気持ちはあったということ。 でも、私と下駄箱で話した後で、他の一緒に来てた友達に
「中学に彼女なんか置いてんなよっ」
と言われたこと。 それで、A美に「やっぱり付き合えない」と伝言を頼んだこと。
これが、K先輩の気持ちが変わった成り行きでした。 あれから、K先輩なりに考えてくれたことも聞きました。 私は、理由が分かって少し気分が晴れ、
「今日は、一人なんですか?」
と聞きました。 K先輩は、一人でした。わざわざ、私にそれを伝えるだけの為に、来てくれたようでした。 最後に先輩はもう一度、「本当に、ごめんな」と言いました。 私は、K先輩がきっと私の為に悩んでくれたのだろうと思い
「いえ。私、先輩に卒業式の日に振られると思ってたんです」
と、言いました。 前もって分かっていたことだから、もう、謝らないで、気にしないで下さい。 そういう気持ちで言いました。 そして最後に、「高校、頑張ってくださいね」と言って、その場を立ち去りました。
K先輩が、こうして来てくれたことで、私の中で、最後までK先輩は良い人になりました。 理由が人に言われたからであっても、それはそれで納得できるものでした。 K先輩に嫌われたわけではない。 それだけで、私は十分でした。 私のことを一生懸命考えてくれる人が居た。 それがどんな理由だろうと、それだけで、すごく幸せなんだと思いました。
こうして、K先輩との、私の初恋は終わった・・・・・
..................................................................................................................................................................
|