そんな終わり
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私は、A美の言葉に耳を疑いました。
「やっぱり、付き合えないからって言ってくれって言われたんだ」
言い放ってA美は歩き出しましたが、私の足は動かなくなりました。
「え・・・・?」
何を言ってるのか飲み込めずに居ると、A美が振り返って
「だから、K先輩にさ。伝言頼まれたんだ。亞乃と会った後で。」
と言いました。 少しだけ、事情が分かってきました。 私がK先輩と下駄箱で会って話をした後に、K先輩はA美に伝言を頼んだようでした。 私が、T子に会って有頂天になって「待ってて」と言われたことを喜んでいたその時、K先輩はA美に私と別れるという伝言を言っていたということでしょうか? 頭が混乱したまま、私は取りあえずA美に近づいていきました。
A美は、申し訳無さそうな表情で言葉を続けました。
「昨日はさ、あんまりにも喜んでたから言いづらくてさぁ」
だから、A美の口数が少なかったんだということに私はやっと気付きました。 ということは、付き合えないと言われたのは本当のことなんだ・・・ それを、A美もこの2人も知ってたから、だから・・・ 私はK先輩と別れるということよりも、昨日から今日の一日を有頂天で過ごしていた自分が、むしょうに恥ずかしくなりました。 何も知らずに、さっき2人に報告したばかりでバカみたい。 ものすごい惨めな気持ちで、一杯になりました。
分かれ際、A美たちに「元気だしなね」と言われ、 「うん。ありがとう」と返事はしたものの、気持ちは複雑でした。 素直に、その言葉を受け止められない自分が居ました。 A美も、きっと言えずに辛かったかもしれない。 でも、「気の毒なヤツ」って一日中思われて、有頂天な自分を見られていたなんて。 そう思うと、明日からどうやって学校へ行こうか?と悩むほど嫌になりました。 自分の滑稽さに腹が立ち、自己嫌悪のどん底でした。
翌日の昼休み。 私は、仲の良い友達とT子に、昨夜の出来事を話しました。 友達の中には、A美を「黙ってたなんて酷いっ」と怒る子も居ましたが、私は自分がバカだっただけでA美も苦しかったんだと思いました。 誰よりも、一番怒っていたのはT子でした。
「あんなに、亞乃、喜んでたのに。どうしてそんなこと出来るんだよっ!」
男っぽいT子は、まるで妹を傷つけられた兄のように、K先輩を怒りつづけていました。 「亞乃がかわいそうすぎるよ」 それを聞いていて、こんなにも私を想ってくれる友達が居るんだ・・・ と、感謝すると同時に、K先輩への疑問がやっと湧いてきました。
「待ってて」という言葉は何だったんだろう? T子が言うように、これじゃぁ、あんまりだ。 結局、私は騙されたの? 言い辛くて、その場限りの嘘をK先輩はついたの? それとも、あの後、何かあって気持ちが変わったの?
それまで、自分の惨めさで一杯で気付かなかったけれど、分からないことが沢山ありました。 でも、別れなんだという事実は変わりようもなく、徐々に悲しみが大きくなっていきました。
でも、元々、大して話をした事も無く、何か恋人らしい思い出がある訳でもなく。 どうせ、学校で会う事も無い相手だし。 付き合ってって言われて付き合ってみただけで、本当に好きだったかどうかも分からないし。 色々言い訳を頭で考えました。 大したことじゃない。そう、自分に言い聞かせたかったんだと思います。
私は、確かに考えた言い訳の通り、K先輩を大して好きじゃなかったかもしれません。 ただ、先輩と付き合ってるという事に浮かれていただけかもしれません。 初めての恋愛に少女漫画の主人公を気取ってただけで、本当の私は違ったのかもしれません。 でも、つい昨日、K先輩を好きだと想っていた気持ちは本物でした。
クリスマスプレゼントを持って来てくれたK先輩を見て、やっとこの恋愛に実感が沸いてきました。 K先輩が他の女の人と一緒だったと聞いて、嫉妬のような感情を抱き、好きだと自覚し始めました。 だから、不安にもなりました。 不安だったので、卒業と同時に別れを言われても仕方ないと想ってました。 でも、第二ボタンをくれて、連絡すると言われて、もっと好きでいたいと思いました。 そして、高校生になったK先輩に会って、すごく好きだと思いました。
付き合う事になってから、一番好きになった次の瞬間に、私は落とされたのです。 初めての恋愛でそんな終わり。 心の対処法が見付からず、数日が過ぎて行きました。
多分、K先輩から理由を聞かなければ、私の中で自分の惨めさを隠すために、いつか嫌いな人になったのかもしれません。
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