束の間の幸せ
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K先輩は、申し訳無さそうな表情で
「待っててくれる?」
と聞きました。 私は、予想外の言葉に驚きながらも「はい」と返事をしました。 そして、K先輩は
「電話するよ」
と言って友達のところへ戻って行きました。
「待っててくれる?」 K先輩の言葉が私の頭の中で、こだまのように響いていました。 恋愛においての「待つ」というのが、どういう事なのか知りもしない子供でした。 待っていたら、またK先輩に会える。 私は嫌われなかったし、高校生になったK先輩の彼女のままでいられる。 学校で会えないけれど、その分、休日にデートとか電話とか、きっと出来るようになるんだ。
私の頭の中は、「待った後」の未来の想像が膨らんでいきました。 と同時に、ほんの少しだけ、「待つ」という事に酔う自分も居ました。 きっと、寂しいと思うし不安にもなるだろうし。 でも、その先には楽しい幸せなことが、きっと待ってるんだし。 単純に「これからも続くんだ」という事が嬉しくて嬉しくて、仕方ありませんでした。
K先輩が行った後、しばらくして、T子が下駄箱に戻ってきました。 私は、T子の顔を見た途端、急に緊張から解けたのか嬉涙が出てきました。 私のその表情が、よっぽど幸せそうに見えたのでしょう。 一気にK先輩との会話を話し、報告し終えた私にT子は言いました。
「本当によかったねぇ。そんな嬉しそうな顔、初めて見たよ。」
その頃、私はあまり表情が豊かな方ではなく、喜びとか悲しさとかを他の子に比べて、素直に表現するタイプではありませんでした。 K先輩との事に対しても、いつでも悪い結果ばかりを想像していました。 だから、余計に私の喜びがT子に伝わったのだと思います。 恋愛が始めての私にとって、それまでの人生の中で感じた事の無い幸福感で一杯でした。
その帰り道。 有頂天な私は、A美にK先輩とのことを報告しました。 いつもなら、A美の方がお喋りで、私が聞き役なのに、この日は正反対でした。 A美は「そうなんだ。良かったね」と言いつつも、あまり話したくなさそうな雰囲気でした。 私は、自分が浮かれすぎていたことを、少し反省しました。
家に帰ると、早速、K先輩から貰った色紙を汚れないようにラップに包み、部屋に飾りました。 K先輩の文字を指で何度もなぞったり、「待ってて」という言葉を思い出したりして、その夜は嬉しさのあまり、なかなか眠る事ができませんでした。
翌朝は、案の定、寝不足でした。 でも、それは心地良い寝不足で、もうろうとした頭のまま、その日一日を幸せな気持ち一杯で過ごしました。 A美とは、中3になって別々のクラスになったのですが、家が近い事からその朝も一緒でしたが、やっぱりあまりは話を出来ない状態でした。 いつもなら、そんなA美が気になり、自分が何かしたのかな?と落ち込むところでしたが、その日の私は自分の事で有頂天だったので、大して気にしませんでした。
部活が終わり、その日の帰り道は、A美の他に同じ部活の女の子が2人一緒でした。 その2人は、部活だけが一緒で普段はそんなに仲が良い相手ではありませんでした。 それに、ちょっと意地悪なとこがあり、少し苦手なタイプでしたが、昨日の出来事を聞いて来たので、私は話しました。
「へ〜・・・そんな事いったんだぁ?」
2人の返事は、なんだか嫌な感じでした。 小バカにされているような、からかわれているような。 でも、幸せ絶好調の私は、気分は良くないものの、やっぱり気にしませんでした。
そして、私の家への曲がり角が近づいてきた時に、急にA美が足を止めて言いました。
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