思いがけない言葉
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K先輩から貰った第二ボタンを見たA美に言われました。
「これ、学校のじゃないよ」
K先輩に「また、連絡する」と言われ、これからも付き合いが続く嬉しさで、その言葉の意味を深くは考えていませんでした。 翌日、学校で他の友達に見せた時に、やはり同じような事を言われました。 「これ、違うボタンだね。」 私は、K先輩の制服姿を思い出しました。 そう言われてみれば、K先輩の第二ボタンだけは、他のボタンと色が若干違ってました。
まさか、卒業式の日に、他の誰かに上げて代わりのボタンを付け替えた? いえ、そこまでする人では無いと思いました。学校に替えのボタンを持ってくるようなタイプではありません。 ということは、きっと私と出会う前に、他の誰かに上げた事があるということなのでしょう。 それが、何時の事だったのかは分かりませんが。 それでも、少なくとも数ヶ月。K先輩が毎日着けていたボタンです。 それだけで、私には十分でした。 制服のポケットに入れて、大事に持ち歩きました。 授業中でも、時々ポケットに手を入れては、ボタンを握り締めていました。 そうする事で、なんだかK先輩に触れているような、そんな幸せな気分になりました。
4月に入り、中3の新学期が始まって間もなくの事。 間もなく部活が終ろうかという時間に、体育館に卒業生の男の先輩達が数人やってきました。 みんな、新しいそれぞれの高校の制服を着ていました。 その中に、K先輩が居ました。
突然の事で驚いていると、K先輩が近づいてきます。 私は、A美に背中を押され、「こんにちわ」と声を掛けました。 新しい高校の制服を着た先輩は、たった一ヶ月の間に、なんだかカッコよく余計に大人になったように見えました。 K先輩が何かを言いかけたとき、他の先輩達がK先輩を呼ぶ声がしました。 K先輩は
「部活、もう終わりでしょ?俺、職員室行ってるから」
と言い残して、慌てて体育館を出て行きました。 部室に戻り、着替えをする間、私は興奮状態でした。 皆が口々に「よかったねぇ。職員室で待ってるってよ」とはやしたてました。 でも、会って何をどうしたらいいのか分かりません。第一、待ってると言われた訳でも無いし。 すると、A美が「色紙買いに行こうよ」と言い出しました。 K先輩と共に、私の部活の先輩も来ていたので、その人にA美達は何か書いてもらうとのことでした。 そこで、急いで着替えを済ませると、近所の文房具屋へ慌てて買いに行きました。
職員室に行くと、まだ先輩達は先生と話をしていました。 先に来ていた他の同級生も、先輩たちと一緒に話をしています。 K先輩は、部活の顧問の席に居ました。 A美に引っ張られるように、私はK先輩の前に行き「これ、書いてください」と色紙を手渡しました。 K先輩は照れたように色紙を受け取ると、高校名とK先輩の名前を書いてくれました。 それを受け取り、私は職員室から出ました。 他の子達は、まだ、先輩たちと話をしていましたが、どうしたらいいのか分からず、一人で廊下の脇の椅子に座って待つ事にしました。
少しすると、K先輩達が職員室から出てきて私の前を通り過ぎました。 どうやら、自分たちの使ってた教室へ行くようでした。 他の先輩たちの手前なのか、通り過ぎるK先輩は、私の方を見ようともしませんでした。 なんだか、少し悲しくなり、私は職員室に居るA美に「下で待ってるから」と伝え、一人、先に下駄箱に行きました。
部活の生徒も帰った後の、静まり返った下駄箱に行くと、クラスメイトのT子と会いました。 T子は、クリスマスに渡せなかったお菓子を作ってくれた子です。 K先輩に会えて、色紙を書いてもらったことを伝えると、よかったねと喜んでくれました。 T子が職員室へ行くと言って去ってしまった後、A美達はまだだろうか?と廊下に行きかけると、K先輩が一人で現れました。
「一人でどこ行っちゃったかと思ったよ」
K先輩は言いました。どうやら、探してくれたようでした。 私は「すみません・・」と何故か謝ってしまい、しばし沈黙が続きました。 K先輩に色紙を書いてもらった後も、話す事が出来たのに、逃げるように出てきてしまった自分が嫌でした。 それに、わざわざ探してきてくれた理由はなんだろう?と少し怖くもありました。 高校に入って、やっぱり別れようと思ったのかもしれないし。 下を向いたままの私に、K先輩は言いました。
「あのさ、俺、高校が遠いから、朝早いし帰りも遅いんだ。」
一瞬、時間が止まった感覚になりました。 そうだ。K先輩の高校はすごく遠くて、それにきっと忙しい毎日で、新しい出会いもあって。 きっと、もう、私なんかを構ってられる状態じゃないんだろうな・・・ 卒業式に日に「また」と言われて、有頂天になっていた単純な自分が一瞬にして凍りつき、身体が固まるのを感じました。
「しばらく忙しくて、あんまり会えないと思うんだけど・・・」
K先輩は、何をどう言おうとしているのか迷っているようでした。 その戸惑い気味の言葉が、もどかしく、余計に私は怖くなりました。 「けど・・・」の後は何? きっと時間にしたら数秒のことだったろうと思います。 でも、私にはとても長い時間に感じ、その沈黙に耐えられなくなり、
「あの、分かってますから」
とK先輩の言葉を遮るように言いました。 K先輩は、一瞬、びっくりしたような表情をしました。
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