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人物紹介


初めての電話
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K先輩が私の家にプレゼントを持ってきてくれた日。
私は、興奮状態でなかなか眠れませんでした。

冬休みに入り、しばらく先輩にも会えない日が続きます。
お礼をきちんと言わなければ。
そう思い、両親が居ない昼間の間に、K先輩宅へ電話をすることに決めました。
なんせ、付き合ってるとは言っても、学校で会話すら殆どしなかった私たちは、勿論電話で話すこともありませんでした。
初めての電話です。

その頃、私の家は朝6時に家族全員が起き、朝食の手伝いや掃除をするのが日課でした。
両親が仕事に出かけた後、私は何度も何度も、手紙のように文章を書き、電話の内容を考えました。
小声で台詞の練習をしました。
顔を合わせる訳でも無いのに、鏡に向って台詞を言ったりもしてました。
そんな事を、朝の8時からお昼までやっていましたが、それでもまだ足りず。
こういう事を考えている時は、時間があっという間に経つものです。
私の予行練習は、午後まで続きました。

そして、午後2時過ぎだったと思います。
意を決して、私はK先輩の家の電話番号をメモを見ながら押しました。
正確に言えば、回しただったかもしれません。そのころはまだ、ダイヤル式の黒電話だった気がします。
番号は、見なくても空で言える程に暗記してました。
好きな相手の家の番号。勿論、住所も。
私にとっては、K先輩がそこに住んでいるというだけで、それを知る事が嬉しかったのです。
好きな人の事は、どんな小さな事でも胸に刻みたい年頃でした。

電話に出たのは、妹さんでした。
私は、母親が出なくて良かったという安心感と共に、K先輩の名前を言うことに緊張しました。
普段は、名字に先輩を付けて呼んでいたので、例え本人相手じゃなくても、下の名前を口に出したのは初めてでした。

電話の向こうで、「おにぃちゃ〜んっ」と呼ぶ妹さんの声が聞こえ、階段を下りてくる音がしました。

「もしもし」

電話に出たK先輩の声は、普段と違って低く聞こえました。
私は名前を言い、挨拶〜お礼の言葉まで、メモどおりに一気に喋りました。

「こんにちわ。昨日は有難う御座いました。すごく嬉しかったです。ちゃんとお礼を言えなかったので。すみませんでした。」

こんな内容だったと思います。
かなり早口で、棒読み状態だったかもしれません。
K先輩は、

「いや、大したものじゃないけど・・」

と言いました。

「いえいえ。本当に嬉しかったです。大事にします。」

半ば興奮状態で私が答えると、唐突にK先輩が聞いてきました。

「あのさ、スキー好き?」

自分で言った言葉が、ヘタなダジャレの様になったことに気付いたのでしょう。

「って、ダジャレじゃなくてさ。」

照れ笑いをしながらK先輩は言いました。
当時、私はスキーをしたことも観たことも、周りでやっている人も居ませんでした。
スキーなどという単語自体、身近で聞いた事も無く、私にとっては未知の世界のものでした。
大体、スキー場というものがどこにあるかも知らなかったぐらいです。

「いえ・・・やったことないんで」

私は、そう答えました。
どうやら、K先輩の親戚がスキー場の側に居るらしく、冬になるとスキーに毎年行っているようでした。
そこで、一つ謎が解けました。
後から分かったことですが、貰ったプレゼントには、有名なスキー場の名称が入っているものもありました。
先輩が学校を休んでいたことがあったので、その時に買って来てくれたのでしょう。

「今度、受験終ったら一緒に行かない?」

K先輩は誘ってくれました。
現実問題を考えたら、友達同士の泊りすら許してもらえなかった家庭事情では、スキーなど行けるはずもなく。
でも、私は誘ってくれたことが嬉しくて、「はい」と返事をしました。
そして、最後に

「受験勉強、がんばってください。」

と私が伝えると、「ありがとう」と先輩は答えてくれて、電話を切りました。

電話を切った後、先輩の声を頭で何回もプレビューしました。
行ったことも無い、知りもしないK先輩の家の階段を下りてくる図を想像したり、
勝手に自分の家と同じように玄関に電話があると考え、電話をしている先輩の姿を想像しました。

そして。
私は、せっかくK先輩が誘ってくれたのに、行けそうにも無いスキーの誘いのことを考えはじめました。
親に、なんて言い訳して出かけよう?
大体、そのスキー場はどこにあるんだろう?

私は、地図を引っ張り出して場所を探しました。
そこは、自分だけで県外に出た事も無かった私には、あまりにも遠い場所でした。
日帰りなど出来る場所ではありません。
というこは、泊る事になります。
どう言い訳したら、親は許してくれるだろうか?
わざと喧嘩して家出してみようか?
スキー場では、二人っきりなんだろうか?それとも他の友達も一緒なんだろうか?
K先輩と手すら握ったことがなかった私は、想像だけがどんどん膨らんでいきました。

その冬休み中、K先輩に会うことは勿論、電話する事もなく過ぎていきました。

年が変わり、元旦の日。
私は同じ部活のメンバーで初詣に行きました。
本当は、K先輩と一緒に行きたかったのですが、誘う勇気がありませんでした。

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私は、とても複雑な想いでした。
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「恋愛履歴」 亞乃 [MAIL]

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