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人物紹介


クリスマス
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文化祭の前には、体育祭もありました。
私は、中学の3年間、毎回応援団をしていました。
部活の後、中庭で上級生、下級生達と共に踊りの練習を遅くまでしていました。
もしかしたら、その姿をK先輩も見ていたのかもしれませんが、私の記憶にはありません。
ただ、体育祭本番の時に、どこかで観ているだろう先輩の目を意識していた事だけは覚えています。

秋が終る頃になると、先輩たちはいよいよ受験勉強の追い込みになります。
それまではフラフラと顔を出していた部活にも、全くK先輩の姿は見れなくなりました。
本当に何日かに一度、廊下で姿を見れる程度。
会いたいと思った時には、放課後になると下校するK先輩を見に、下駄箱へダッシュしていました。
そして、相変わらず。私からK先輩に声を掛ける事も無く、日々過ぎていきました。

12月に入ると、クリスマスプレゼントの話題になります。
好きな男子が居る子は、それぞれに手編みのセーターを編んでいたり、誘い合って買物に行ったりしていました。
私も、友達に「どうするの?」と聞かれていました。

当時、私の家は厳しく、お小遣いというものを殆ど貰っていませんでした。
学校で必要なものは親に言って買ってもらう。
それ以外の余分なお金が無かった私は、友達と一緒に買い食いをしたり、遊びに行ったりすら出来ない状況でした。
まして、好きな男の子にプレゼントを買いたいなどとは、親に言えません。
当然。先輩に何かをプレゼントしたくても、自分のお小遣いでは足りません。
考えた挙句、私は、裁縫が趣味だった姉から毛糸を貰い、マフラーを編みはじめました。

初めての編物です。
姉から貰った真っ白な毛糸と、借りた鍵針で、本を見ながら見よう見真似で編みました。
クリスマスには、出来上がっていました。
でも、その出来栄えは最悪でした。
少ない毛糸で編んだそのマフラーは、幅が15cmも無かったように思います。
長さだって、首を一回り出来るか程度しかなく、網目もガタガタ。
そして、長い間何度もやり直しをしたために、薄汚れてしまっていました。

みっともなくて渡せない。
私は、そう思いました。やり直したくても、その材料が私にはありませんでした。

その頃、仲良くなった友達の中に、お菓子作りの得意な子がいました。
ヘンテコなマフラーはみっともないし、かと言って何も渡さずには居られない。
そう思った私は、クリスマスイブ前日になって、その友達にお菓子作りを頼みました。

本当に、自由の効かない家でした。
好きな人の為に手作りのお菓子も作ってあげられず、友達の家で一緒に作るにも、親が許可をしてくれないと行けない状況でした。

クリスマス当日。
私は、結局、マフラーを持たずに学校へ行きました。
友達は、カップケーキを作って箱に詰めて来てくれました。
でも、それは私が作ったものではありません。
その日、私は、教室からなるべく出ずに、K先輩に会わないように過ごしました。
今でも、あの時の感情を思い出すと胸が締め付けられます。
他の理解ある親が居る家庭で育った友達を羨ましく感じました。
皆、いつもより大きめの袋を持って、「どうしよう?」「いつ渡す?」などとはしゃいでいます。
そんなクラスメイトの中、私は悲しいような、惨めなような。
そんな気持ちで一杯でした。

その日は、確か土曜日でした。
授業が終わり、HRがその日、長引きました。
教室の窓の外では、部活に出なくなった上級生たちがどんどん下校し始めました。
HRがやっと終って掃除当番も終った頃には、上級生の殆どは下校してしまったようでした。
せっかく作ってきてくれた友達に申し訳無いと思いながらも、私はどこかでほっとしました。
帰ってしまったのなら、渡す事は出来ない。いや、渡さなくて済む。
そう思いました。

私は、友達に渡せなかった事を謝って、部活へ行く準備を始めました。
もう、上級生が下校し始めてから、1-2時間ぐらい経っていました。
ところが。
その時間になって、何気なく見た窓の外に、K先輩の姿があったのです。
K先輩は、しばらくウロウロしていました。
一度、上から見下ろす私の方を見たので、私は慌てて隠れました。

もしかしたら、K先輩は私を待っていたのかもしれない・・・

そう思いました。
今から走っていけば、渡す事ができます。
でも、しませんでした。勇気がありませんでした。
しばらくして、K先輩がカバンを持って、校門を出て行く姿を見送りました。

そして、そのまま私は部活に出て、夕方になって家に帰りました。
ものすごい後悔のような安堵のような複雑な想いのまま、私は渡せなかった友達が焼いてくれたお菓子の箱を開けました。

私の家は共働きで、学校から帰ると姉と私だけでした。
私はその友人の手作りであるカップケーキを、姉にもあげ、やけ食い状態で平らげました。
ヘタクソで、みっともなくて渡せなかったマフラーを眺めながら。

時刻は、夕方5時ごろだったと思います。
もうすぐ、両親も帰ってくる時間です。

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すごく驚いて、声が出ませんでした。
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「恋愛履歴」 亞乃 [MAIL]

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