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人物紹介


嘘泣き
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K先輩はものすごく優しい声で言いました。

「誰かに無理矢理来させられたの?」

緊張で震える声と、鼻をすすったことで、泣いていると勘違いさせてしまったようでした。
私は、俯いたまま首を振りました。

「じゃぁ、なんで泣いてるの?嫌だった?」

どこまでも優しいK先輩の言葉に、私はまさか、「鼻が出ちゃって・・・」なんてロマンが無い台詞は言えないと思いました。
私には、経験も無ければ、データも少なすぎました。
あまり漫画やドラマを観る事も無く、友達で彼氏が居る子もいなかったので知識もありません。
というより、この場合。
自分の素直な感情として「別に泣いてないです」と答えれば済むようなことでした。
でも、何かしら格好をつけたかったし、どこかやっぱり、私はドラマの出演者気分だったのでしょう。

グルグル頭で考えていると、先輩の足が私に近づいてくるのが見えました。
顔を覗き込もうとでもしたのでしょうか。
私は慌てて、鼻に手をあて、先輩に顔を見られる前に言いました。

「あの・・・嬉しくて・・・」

私の数少ないデータである漫画の少女が、告白されるシーンで嬉し泣きをしていたばかりに、咄嗟に私は嬉し泣きのフリをしてしまったのです。

今、思い出しても顔から火が出るくらい恥ずかしく、意味不明な台詞です。
やはり、K先輩にとっても、この台詞はおかしかったようで

「なんで?」

と聞かれてしまいました。
なんで?と聞かれても・・・・・・一応嬉し泣きだから嬉しいからで。
本心は例え違っても、今はそういう設定だからで・・・まさか、そんなことを説明できるはずもなく、私はやっぱり答えることが出来ずにいました。
答えられない私を見て、K先輩はきっと考えてくれたのでしょう。

「なんで?ってことはないよな」

と言って、笑ってくれました。
無粋なこと聞いてゴメン。そんな感じの言葉でした。

放課後ということで、体育館には部活を始める生徒が増えてきて、外にいる私たちは目立ち始めました。
そして、K先輩は

「来てくれて有難うね。もう、部活行くでしょ?」

と、呼び出したのは私なのに逆にお礼を言われ、立ち去るタイミングを逃していた私に救いの言葉をくれました。
私は、ぺこりと頭を下げると小走りで、そのまま体育館の部活をやっているクラスメイトでもあるA美のところへ行きました。

間もなく部活が始まる時で、A美は既に着替えて座っていました。
彼女含め、同じ部活の同級生の女子は、みんな、今、私が返事をした帰りであることを知っていました。
私は、どんな顔をして友達に報告すべきか分かりませんでした。

そして、先輩に勘違いされた泣いたような状態で、A美の隣に私は俯いたまま座りました。
今回のK先輩との仲の橋渡しをしてくれていたのは、A美でした。
A美と私は、同じクラスで同じ部活でしたが、普段から一緒にいる友達同士ではありません。
A美にとって、多分、今回のK先輩と私のことは野次馬的感情で、半ば面白がっていたように思います。

「どうした?」

A美に聞かれた私は、付き合うと答えた事。先輩が言ってくれたことを、鼻をすすりながら報告しました。
聞き終えるとA美は言いました。

「で、なんで泣いてんの?」

後から思えば「緊張しちゃって」と答えるのが一番自然でした。
実際にK先輩の前では涙は出ませんでしたが、緊張から解き放たれ、逆に泣きそうになっていたのは本当でした。
でも、私はA美の問い掛けが威圧的に感じ、言い訳がましい言葉が口から出てしまいました。

「うまく、先輩に言えなかったから・・・・・」

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そして、私を突き放すようにそっぽを向きました。
私はA美に嘘泣きを見透かされたような気分になりました。
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「恋愛履歴」 亞乃 [MAIL]

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