初めての告白
....................................................................................................................................................................
|
K先輩の所へ辿り付くまでには、大きな高飛び用のマットがありました。 私は、その上を歩く時に足をとられ、尻もちをついてしまいました。 無様な格好をモロに見られ、ますます頭が真っ白になってしまった私。 たった一階分の階段が、異様に長く感じました。
K先輩は、屋上への扉の前に立っており、その顔は夕日に照らされて、まるでドラマみたいだな・・と混乱した頭で無意味なことを考えていました。 やっと、先輩の前にたどり着いた私ですが、積み上げられた荷物が多いその場所では、その距離が手を伸ばせば触れるほど近く、 恥ずかしさのあまり顔を見ることも出来ずに、挨拶もせず俯き、黙り込んでしまいました。
K先輩は、しばしの沈黙の後、
「ごめんね。突然呼び出して」
と言いました。 声を出そうと思ったのですが、それすら出来ずに首を横に振りました。
「俺、お前のこと好きなんだ」
K先輩が言いました。 それまで、少女漫画でしか見たことのない光景が、自分の身に起こっています。 小さい頃から、マンガやテレビのシーンを一人で頭で空想するクセがあった私は、何度もその主人公に自分を重ね、練習をしてきたような気がします。 でも、実際に、こんなに早く自分の身に起こると思ってもいなかったので、答えを用意していませんでした。 あのマンガのシーンでは、どうだったっけ? そんな事を考えていたと思います。
と同時に、初めての告白されるというシーンに、 「この後どうなるの?」という好奇心がいっぱいでした。
反応も出来ずにいると、K先輩は言葉を続けました。
「俺と付き合ってくれる?」
K先輩の声は、ものすごく優しく、余計に上の存在に感じました。 兄がいたら、こんな感じなんだろうか? 優しく誰かにこんな風に話し掛けられたことは、その頃の私の記憶には殆どありませんでした。
いよいよ、空想が現実になりました。 確か、漫画であれば、少女は前から彼のことが好きだったので喜びの涙が出るはず・・・・・ 感情的にはK先輩の優しい声に涙がでそうな気分でしたが、でも、実際の私に涙は出ませんでした。
漫画のようにはいかない現実を目の当たりにし、私は半ば他人事のような気分でした。
..................................................................................................................................................................
|