『 hi da ma ri - ra se n 』


「 シンプルに生き死にしたかった 」


2005年08月10日(水) しおん

ふと、とまったバス停をみるともなく見ていたら
標識のとなりのコンクリ柱は
ふはり
と帽子をかむっていた

きなりの色のやわらかそうな帽子だったから
それを被せた手が
かすめていた思いのことをぼくは思わず考えてしまった

思い出すのは
フェンスに結びつけた小さいタオル
雪とけたのち
アスファルトにはりついた片手袋
ひらがなで名前の刻まれた名札は
チューリップをかたどったあかるい桃色で
誰かが踏んづけてしまったのか
茎のところがわずかだけねじれてまがっていた

拾い上げてしまったもの
うかつにも
手のひらに握ってしまったもの
もういちど捨ててしまうのをためらったなら
こまごまとした誰かのがらくたがいつか
手元に集っていく

一度投げられたものを忘れられたものを
もういちど、忘れ投げるということについて
ちいさなちいさな
躊躇と迷いと
あるはずもない意識についてかなしみを思って
たくさんのものに触れて

ふはり、
とそのやわらかそうな布きれが手をはなれて
誰のものでもないものに戻ったとき
あなたは、どんな顔をして
そのあっけらかんとした自由さをみたんだろう

・・・・・・・・・・

病院に行ってみました
お盆前で
たくさん人のつめかけているところでした
やあ出て行くぞというときになってつまづいたいくつかのものを
頭からふりはらってまっとうにドアを開けて行けなかったものだから
受付には間に合わず。きろり、とこちらをむいたいくつかの目と気配に
圧倒されて縮こまってUターンしたくなるのだった。
ひりひりする身体なのでうれしいようなうれしくないような
あいまいな心持ちにて。お薬だけもらって帰る。

外に出ていくと自分の機能が
あまりうまく動いていないということを
少しずつわからされなくちゃいけないみたいで
ああ、と思うんだった、ああ。
底辺を這うみたいに地上を移動してゆくのですが
それでも、場所をとりすぎているような気がします
ひるがえるスカートの裾のベージュ色が
黒色がらすに足元だけ映ってこっちを見ていました。

・・・・・・・・・・

からっぽ以上にからっぽの頭は
なにも生み出さないで、ただ
叶えられない望みばかりいっしょうけんめいに
周囲に押しつけようとする
もう、少しその熱を下げて黙ってもらうにはどうしたらよいんだろうと
マンゴージュースを手にぼくが思い
思いながら投げ出だし
すっかりとけてしまった氷が
黒いテーブルの上、まあるく水たまりをつくった

うん、墜落すれすれの低空飛行
すきまがないところにぎゅっとこいつを
押し隠してやっといてよ
見えないように

ふりむいたうしろには
色鮮やかな盆花がたくさん
つきささってひらいていました

外は、背もたれのない椅子で
あまやかな嘘を投げかけたきみを
見つけることができないで
しゃっきりと立てない野の花になれない

重たすぎる、とひとこと言って次が続かないから
もう探すのはやめにしてあたたかいお茶に氷でもうかべよう


8月10日、夜


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