堂々と泣く権利がわたしにはないから 歯を食いしばって知らないふりをしていることにする たくさんのたくさんの嘘をわたしはついた わたしは、 故人、と、 呼ばれてしまうあなたをとりまく人の列にまぎれられないで ひとまわり外側から見届けていなくてはならないものだから
たくさんの嘘をついた
あれから、あんまり、笑ってない 泣くのは、夜中に一人で ふとんをぶっているときだけでよくて それでも多すぎるくらいだから そうしてなんにも考えたくないから 睡眠薬のつよいのをたくさんのんで 夜から夕方まで夢の中にいる
眠っているのは好き ほとんど全部忘れられるから ときどき夢の中に、忘れてるほんとうの破片が顔を出して 背中から杭を突き刺されたみたいに目を醒まして 指の先は氷みたいにつめたい 足の先もこおりみたいにつめたい まるくなってまた眠るにはあんまりにまっくろで、わたしは 誰かの声を聞きたくなるけどそれは夜だから ふとんから這い出してだれも出ない電話の呼び出し音だけ聞いて さようならする 胸の奥の奥に沈殿している凝り固まった闇みたいな 重たくてくるしいものに マグカップいっぱいのお湯でとけるんなら それでとかして わたしはまたおくすりを飲んで なんにも考えないようにして
でも、ほとんど忘れられるから 眠るのは好き ただ、目を醒まさなきゃいけないのが いやなだけ
ひるま。
お面をつけられてよかったなあと思う じぶんをころす訓練を 8年もやっていてよかったなあと思う この袖をよごした血の色だけかくしていたらだれも気づかないから 毎日ふえていく傷だけど かくしていたら誰も知らないでいいから
自分のなかのどこかに ふかくつきささって、いろんな毎日の雑事にまぎれてしまった たしかに「とてもかなしい」というそのきもちを 手探りでさがしだして、そうして 抱きしめてみることがとても難しいと言うことを 何度か知らされてきて そうしてまた 知らされているみたいで
目に見えないそれをさぐりだすまでどこまでもどこまでも深いところに わたしは降りていかないとならなくて それを放棄しても構わないのかも知れないけど ただ、 わたし、笑えないから こんなに嘘つきなわたしなのに ちっとも、笑えないから それだから
それだけは嘘がつけなくてだからわたしは 傍からみたらばかばかしいだけかもしれないけど ただの小娘の感傷なんだろうけれど、でも じぶんのかなしいを、ちゃんと かなしいって、呼んでやれるようになりたい そうしてあなたの思い出をぜんぶかなしいで埋め尽くしてしまわないように ちっぽけな注意だけどたくさんの思いをこめて わたしのなかのあなたを やさしいものにかえしてゆきたい 過去形なんていらない ただ今までずっとあなたはとてもやさしいでいっぱいだったのだから これからだっていつもきっとそうなのだから
かなしいをさがして くるしいもたくさん 深いところにいて そうしたらたぶん やさしいが 見つかる気がする
2月16日、深夜 真火
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