『 hi da ma ri - ra se n 』


「 シンプルに生き死にしたかった 」


2004年01月19日(月) 月曜日、雨の朝

雨の日の朝、あたしは
パパとママの帰りを待っている。

午前12時半からふとんのなかで、枕もとの水色のぬいぐるみに話し掛けていた
目を醒ましきってしまったときにするこのごろの常とまったくおんなじに
延々と続く脈絡のない物語を作って聞かせている
それはまるで次から次へと空気の中に消えていく日記のようでもあり
あたしがここにいるという痕跡を声だけででも示そうとする足掻きみたく
それでもあっけなく誰もいないおふとんのなかから吐き出されて
ほわほわと立ちのぼる白い息といっしょに消えていく

つめたい空気はなんにもおぼえていない
それとおんなじくらい
わたしのあたまのなかにその物語は
ただひとつの言葉も残っていない

ながい、ながい、
はてしなくながい詩のように
眠れない夜にあたしの綴った物語を
おぼえているのは一匹のみずいろのぬいぐるみだけだ

それだからもう、この世界のどこにも、あたしの言葉の記録装置は探し出せない

雨が降っている朝に
あたしはパパとママの帰りを待っている
とうめいなベールみたく降ってくる
つめたいつめたい天からの水のカーテンは
あっけなくほどけて地面にひろがりながら
どこか知らないところへとざあざあと音を響かせながら流れていく
あたしはその音をこたつのおふとんにくるまって
ただ、あたたかいということだけを
からだが思い知ったならいいのにと思いながら
黙って聞いている

家のなかには誰もいない
つい1時間前にわたしはひとりになった
気配のない住人がそこらじゅうから顔を出して
わたしは、自分の耳をふさぐ
目を閉じて、何も見えないように

書きとめた文字よりも膨大な物語の数々をわたしはひっきりなしに製造する
ここに書きとめることもできなかった限りなく嘘でしかなくて、そうして
どこまでもわたしのこころに正直でまっすぐだったことばの数々
わたしはそれをひろいあげたくてしかたない
しかたないけれど

去ってしまったものを追いかけるには
わたしの足は無力であるらしくて
取りこぼして拾い上げられたときその言葉は
もとにわたしがほしかったあの姿とは
ちっとも似ていない知らないものになっていて
そのたびにわたしは小さく絶望する
あてにならない自分の記憶の力を嘆いて
そうしてひろいあげた言葉をふたたび投げ捨てて

いつ、わたしはひとりじゃなくなるんだろう
いつ、パパとママがかえってきても
家族がみんなそろっても
そうしてかそこにはぽっかりとあたしの不在が刻みつけられていて
わたしはその鋳型のような空間のなかに
自分のからだを納めることができない
そうしてわたしはいつまでも自分の言葉を見つけられない

たとえばいつか枕もとの水色のぬいぐるみが
そっとわたしに寄り添ってそのぽわぽわとした手で
わたしの涙を拭いてくれるまで
もしかしたらわたしはひとりぼっちなのかもしれない

雨の日は水の中に包まれている
それはとてもとても安心で
そうしてこの上なく孤独でつめたいものを
わたしの体の外側に
ていねいにていねいに、着せ掛けていく



1月19日、朝 真火


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