『 hi da ma ri - ra se n 』


「 シンプルに生き死にしたかった 」


2003年07月28日(月) 眠らない人

ゆるゆるとおくすりが効いてくる
それは
きっと感謝したほうがいいことだと思う

ほとんどおよそのおくすりが効かなかったわたしだったから
もしも、この三月のあいだ、なにもひとくちも口にしないで
半ば意地を張っていたことが今のこの効き目を生んでいるのなら、それは
それでわたしはよかったと思う

すいみんやくというもの
デパス
レンドルミン
マイスリー
ハルシオン
ロヒプノール
そのほかもう憶えてもいないざらざらとこぼれていった錠剤
わたしを眠らせてください
やすらかに

いつまでも
でも、いい

朝方の心がぐらついている
昼になって起き上がるからだが鉄のかたまりを
背中のあたりにくくりつけているみたく
それでも、半覚醒のからだは一気に痒みを訴えはじめて
そうして半分ねむっているがために
私はこの手を止められない

とろとろと眠り続けていたいけど
傷を増やすのがおそろしくて外に出てゆく
外の世界に

誰かがそこにいるのが恐ろしくなりました
ひとりきりでいられる夜の時間が終わり
家人がそろそろと起き出して、さまざまな音があふれかえる
母が朝食の支度をしています
水の音、洗濯機、ガスの炎がかすかに音を立てて
そして話し掛けられるわたしへのことば
誰かがすぐそばに存在するというそれだけのことがら
おそろしくなりました
顔がゆがんでいくようでわたしは笑う、叫ぶでもなく
逃げるでもなく

ひとりでいる夜のあいだにこころはずんずんと沈静化していって
どこかわからない静かなところへと突き進んでいくらしい
ひとの血はだれでも汚くはないのだって
そう、教えてくれた人がいました
ほんとうかな
ほんとうかな
噛みついた腕に赤味がさす、そのときわたしは誰かを羨んでしまった
象のような、鱗のような、そう医学用語でまで形容されることのない
なめらかな皮膚を抱えている多くの人たちに対しての、不当な羨みを

その羨みに飲み込まれないようにわたしは
今できることを探していきたいと思うばかり

小さな刃物、ささやかなやいば、
するすると流れた血がしずくになって溜まって
腕のカーブに沿って流れをつくっていきました
紅い紅い血液でした
どす黒いようでいて
そうして
思いのほか、うすい色の血液で

そういえなこの間たわむれに血圧を測ったら
血圧はともかく脈拍が100を越えていたのですよ
おどろきました
なにがためにそんなことが?


あふれてきた血
薬指につけてくちびるにさしてみたら何よりきれいな口紅になり
汚れてはいないということを私はわたしに知らせたく思って
ただ黙って鏡のなかのくちびるの赤さを見ていました
紅い紅いくちびるの色
気味悪いと思われても、それはとてもきれいに見えていた

ゆるゆると溶けてゆくおくすり
病名を知らないことを
このところ、心のどこかで
心許なく、不安に感じている自分が、います

尋ねてみようかな
今のわたしがいる位置について
これっぽっちの勇気をもって
嫌われる疎まれるという恐れをひととき
心のどこかにしまいこんで


眠らない人よ、おやすみなさい
次に目の覚めるときまでに
あたらしく透明な空が、からだのどこかに
ひろがりますように



7月29日、明け方に  真火


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