| 2003年07月30日(水) |
とうめいな骨、届かないキス |
「夜の触媒」
夜
またこの時間がやってきて、ぼくより
こぼれる液体
なみだ、組織液、リンパ、細胞球のやぶれたそこより、血液
いつまでも変わらずにいることのひとつ
誰もいなくなるこの刻に身体のそこらじゅうから液体がこぼれてゆくのは
ひとびとがみんな夜のなかにあんまりに
たくさんかなしみをとりおとすからだろうか
わらっていたひるまを
わすれたかのように黒くかわった道や壁や家の影が
ぼくのことを呼んでいる
そとへ
でておいで
そうしてどこかへいってしまいなさいだれの手のとどかないもっとずっととおくのほうへ
ぼくはただ耳をすませている
呼ばわる声のふくむ嘘の無数をかぞえながら
ひきかえせないことがらをかぞえながら
ぼくはただ耳をすませている
そして耳を閉じている
耳をふさぎ唇をふさぎ目をふさぎそうして覆って
息を吐き息を吸い
咳き込みながら自傷し嘲う
さまざまないのちを喰らいながら踏みにじり
ここにおらなくてはならない訳を
これっぽっちもわからないままに耳をふさぎくちびるをふさぎ目をふさぎ
居ながらにして居ないものとなれとひたすら念じる
かなしみも怒りもすべてが遠ざかってゆくように
信じてもいない神様にぼくは祈って、そうして
いつか
こじあけられていくのだろう
「言われるままに命をつなげ」
とうめいに、なってはいけないのですか
とうめいを、のぞんではいけないのですか
あなたの目にふれることに躍起になってきりきりと舞い上がり落ちていたぼくは
そんなにも、望ましいぼくだったのですか
生きていなければいけない、ぼくだったのですか
切りさいた傷口から膿がにじみでてくるように
かみついた皮膚からぼくの歯型がわかるように
この世界のあちこちに
ささやかにのこされてきたぼくの痕跡があるのにはちがいない と
そう
みにくい言葉をたくさん吐いたぼくが
誰かのなかに生きてしまったかもしれないということ
そのおそろしさを
快いと思うひともいるのですね
取り戻せない笑顔のことさえも また
きのうのことと片付けられていく、うつくしくすこやかなその腕の筋肉
ぺたぺたと残されてきた刃や言葉や手のひらの跡
消えてしまったいのちへ向けられる届かないキス
無数に投げかけたとてすでに何もかも遅いとわかりきってしまうことが
ぼくのからっぽの頭の中に捕らえられるすべての音
神様を恨むならあなたについて恨むだけです
なぜ わたしからあなたを奪っていったのですが
なぜ この世界から
わたしではなくあのひとを奪っていったのですか
真夜中に取り落とされたかなしみのなかのいくつかが
ぼくのなかに居場所をみつけ
そうして潜り込み巣食いはじめるこたえのないことば
ふさいでいるはずの耳元にささやきかけるばかりで
ぼくは独りをおそれてしまう
ぼくは独りをもとめてしまう
どこまでもいつまでも
わたしとあなた
似たようにいつも
けっして触れ合うことなくとも、それでもやはり
さんさんと日のあたるあの場所に
ただ、となりあって座りつづけていたかった と
かなわないことをいつまでもつらつらと
こころのなかに抱えている
そのような、口に出せない秘密がどこからか漏れてゆく夜
糾弾のことばは雨のように激しくがらがらと落とされて
ぼくは、しずかにとうめいになります
ぼくは、しずかに
とうめいに
ならなければならないのです
「かぎりなくやさしくざんこくなひとに」
ぼくはもう届かないキスをあなたに届けたかった
7月30日、深夜 さようならを言えないぼくがだからみずからにさようならと・・・・・・真火
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