『 hi da ma ri - ra se n 』


「 シンプルに生き死にしたかった 」


2003年06月05日(木) 隣の宇宙

わたしの苦しみは、わたしだけのものなので、
あなたにだって分けられない

のと同じように

あなたの苦しみは、あなただけのものなので、
いくらわたしがそれを欲しがっても、絶対に
本当のところはひとかけらも持ち去ることはできないし
同じ意味の涙を流すこともできないし
いくら同調したいと思っても、それはもう似非欺瞞でしかないと思う。

うん、と頷いて此処にいる。

隣に座るのは肩代わりすることじゃない。
わたしはあなたの苦しみを、絶対に絶対にわからないし
ダイレクトの意味であなたを身軽にすることは決してできない
その無力な感覚を全身で味わって歯軋りすることが
たぶん、そこに居ることを選んだときに、するべき精一杯のことなのだろう。
そんな風に思う。

別々の苦しさを持って隣同士に座る。

楽しいことをいっしょくたに味わうことはできるような気がするけれど、
こと、つらいことに関するかぎり
隣にいるひとは目に見えるのに果てがない支配するルールの接点もない
全然別の宇宙みたいだ。
別々の宇宙同士がぴったりと座って同じ空を見て違うことで泣く。
くっついているところはあたたかいけど
内側はとても透徹していて
きいんと音がしそうに凍っている。
さびしい、きびしい、
温度がない。

でも、それでも、
隣に座る。
座って、おんなじ空を見ている。

そうしようと決めてしまう。

ものすごくお節介な話であると思う。
そうして自分勝手な話であると思う。
もしも座っていることにわたしが飽きたら、もうそれで終わりなのだ。
バイバイさよなら、
そう言う気まぐれの上にある自己満足でしかないだろう。

……そうにも、思う。

もう泣くのはやめなさいと言えたらいいかも知れない。
きちんと立派な人みたいに、ちゃんとした言葉で、ちゃんとしたせりふ。
でもそう考えても頭の中はすっからかんで
何にも「気のきいたこと」なんて出てこなくて
結局、気がついたらそこに座り込んでいるくらいしかなくて
でくのぼうみたいだ。

相手に許されなくちゃ、隣に座ることなんて恐くてできやしない。
いくらそうしたくても、そうしたいだけでは駄目。
身体はひとつで、それ以上にわたしはひとつで
口を挟める隙間なんて限られているのだ。
たくさんの条件が絡み合ってはじめて、わたしに許されること。
あなたの痛みについて、いくら聞いてもそれがわからないことについて、
存分に身体に叩き込んで、それでも隣で座っていようとすること。
ソファの上の隣の宇宙。
屋上のコンクリートの上の隣の宇宙。
途中で投げ出した人。
できそうだったのに、できなかった人。
わかっているのに、できなかった人。

(できないまま居なくなっちゃったから、あなたは、私の中に今でも生きているんだろう)


甘ったるい考えだ。
きっとあの人たちの言うとおり、世間知らずで。
だけど
これで居ていけないといくら言われても
わたしには行くところが見つからないんです。


……これだけしかわからない。


あなたの苦しみが先に終わったら、そのときに
よかったねと嘘じゃなくて笑って言えたらいい。


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