| 2003年05月08日(木) |
あなたの満足するようなお返事をわたしは考えつけませんから |
どこにゆこうか
ザラ紙をなぜながら彼はといかける
なにをたべようか
髪先に触れながら彼はといかける
イエスノウ
求められれば首をふることしか選ぶものはないので
どのようなことばもたべものも
いつの日にか空洞のからだのなかを出てゆくだけになる
それではいけないのだろうときみが応じて
わたしはまたひとつ呼吸をする
ひとつ、吐き
ひとつ、吸い
眠りに落ちてから注ぎ込んだオレンジの色は夢にもどぎつく
わたしは見たこともないあなたの背中を見た
食べてしまった言葉の数だけ
見も知らぬ、ひとびとがわたしのなかに増えてゆく
と
架空の幽霊はいくつもいくつも
ことばすくなに見つめあいながら何も通いあわない腕をのばして歩き
すでに死んでしまった生きているひとたちが
半透明に色づいて息をする
せめぎあう
わたしのなかで色めきたつ、いつに出会った誰かの残像
すでにない
すでに息をしていない
いえ、もしかすれば、それは、ただ、
あらかじめ呼吸の音すら捨てていたのかもしれませんね
雑音を拾いつづけるわたしの脳が
いくらかの誤作動を起こしながらつくってゆく
わたしとあなたのなかに境目はない
選びとれるものはなにひとつない
見失ったから
捨てたの
なにを?
・・・・・・さあ。
すべて、ただ、それだけのお話なのです
曇り空の下で展開されてゆく
こたえのないひとりがたりが綴じてゆく
つみかさねられていく問いかけ
この場所には届かない問いかけ
ぶちまけたオレンジジュースの色が視界を埋める
濃縮果汁はきらいなのだと
あれほど繰り返し言ったのに
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あなたのなかでわたしが死んでいてもなにひとつ不思議に思うことはないのだと 少しばかり長すぎる時間をかけて学んできたかもしれません せかいじゅうの誰かとともだちになりたいと考える思いがただの夢語りであると うすうす考えてはいましたが、ほんとうのところ そういった思いを持つことのほうが異端なのだと少しずつ少しずつ よくわからない誰かが様々な方角からわたしに教えている気がします
だから、まちがった方位へわたしは進んでいくのかもしれません。
たとえばあなたがわたしを殺しても別にいいやと思い切れば それは少し、世界、に近寄っていくことなのかも知れないし けれどそれに逆らってゆくほうがあまりにナチュラルな仕業だから 余分な抱え込みの中で わたしは勝手に閉じていくのかも知れません ドアを閉めて息を殺して誰にも嫌われたくないがために 誰も嫌わない。 ばかげた仕業であるとさまざまなひとが笑いました。 そう、根っからばかげたわたしにとっては生きるか死ぬかにひとしいことだとは 本当のところわたしも認めたくありません。 ただ心臓がばくばくと打ちながらからだじゅうが 冷たく冷たくひえていくのを感じるだけで
だれも触れないでください
そう念じながら
わたしは確かに大人ではありません しかし 子どもではありません。
すでに。
・・・・・・・・・・
大人に憧れるのでなくまじりけのない疑わなさで大人になれと説き 子どもであることの苦悩を鼻で笑うようになったなら、そのときは
あなたはあなたの子どもをすべて 抹殺できたということでしょうか
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