| 2003年01月07日(火) |
sing a song |
小さく泣いた 大きな空が泣いていた 芽吹いたゴーヤ、遠い潮に祈りながら海を知らない雨 食べた
天までのびてたくさんの実をつけたなら 島に届くね だけどここは寒いと言って夢を見ながらほんのすこしだけ 泣いた
(こっこ 小さな雨の日のクワームィ)
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今日も、世界はとても綺麗です。 そうして、夕刻にさしかかり、 ふいに いろんなものが空から落ちてきてわたしを塗りつぶそうとするみたいな気がして 苦しくなる こわくなる 投げ出せない不安を抱えて走り出したくなる わめきだしそうな自分を必死に抑える 痛いわけじゃない、どこも痛くない ただ 今にも爆発するか、それともはてしなく収縮してつぶれてしまいそうな自分があって それからごちゃまぜの過去となんにもない未来がある。 まっしろすぎる暗闇に目眩がした。
歩道橋のうえで日が暮れていくのをずっと見ていた。
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あなたはとんでもなく安らぎのひとだった ひとりで歩くこともままならない細い足 大きなひとみをふちどる長いまつげ
ひこうきぐもを追いかけるわたしとそれを見守るあなたがいた冬は so far away, so far, far away
きれいなお人形も欲しかったおもちゃもあなたは持ってたのに 包み紙そのままで
もうすぐその手を飛び立つこと知ってた?
ひこうきぐもを追い越してあなたは 誰より高く飛んでゆけるはずよ so far away, so far, far away......
(こっこ ひこうきぐも)
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だんだん暗くなっていく空は、薄くとうめいに青くて 風はつめたくて、 ひとつひとつ、点いていく国道のオレンジ色の明かりも明るいけど ちっとも頼りなくて、わたしの拠り所にはなるわけじゃなくて 頭の上の空を西に向かってつぎつぎ飛んでいくからすの風切り羽が くっきりと空に映えてきれいだった。 黒い影でまっすぐに飛んでいったたくさんの鳥の陰。 その下にわたしがいて なんにもできなくて 不安で不安で不安で不安で 道行く人がみんなエイリアンに見える。 ことばがつうじない、 わたしだけつうじない、わたしがエイリアン。 おかしいのがわたしなんだ。 だんだん、そんなめちゃくちゃの思考の迷路ができあがって そこから抜け出せなくなっていく。
わたし。
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ブーゲンビリア、蔦を絡ませ 折り重ねては時を敷き詰め 刺さる刺に気づくと 木陰からこぼれるあの太陽が見えない腕で明日をせかした
歩くためになくしたものを拾いあつめて手首に刻み込んでも
明るくなってゆく空をふたりは憎んでいたけど いつの日か幼い愛は抜け殻を残して飛び立つことを知っていた
窓叩く季節をもう何度かぞえたのだろう 手をのばせば届きそうなほど残酷に赤く
置き去りにして来た記憶も、張れあがる傷痕たちも やわらかなあなたの温度を狂おしく愛していたから
明るくなってく空を独りで憎んでみたけど いつの日か幼い愛は抜け殻を残して飛び立つときを 待っていた
(こっこ やわらかな傷痕)
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歩道橋は風が吹くたびに頼りなくふらふらとゆれます 誰かが歩いていくだけで上下に弾むみたいに 足元からふわりふわりと、ぐらぐらと、足元の丈夫な灰色のコンクリートが揺れます その上にわたしが立っていて、いつまでも立っていて 不審顔で通り過ぎるひとたちのところから、わたしはふっと遠ざかって 気がついたら頭の中にうたがありました。 それだから口をついで出るままにうたいました。 押しつぶされてしまわないように どんどん、行き詰まっては煮詰まっていく 自分を生きているんだけど生きていないみたいな中途半端な死と それから容赦なく落ちてくるたくさんの恐怖と怯えと、不安の切片を 走っていく思考を食い止めるために 気がついたら、頭に浮かぶまんまに、次から次へと 小さい声だったけど でも わたしは歌っていました。
歌える声がわたしにもまだあるんだよ。
東京都の、高輪台という住宅地のすみっこで アスファルトにじかに座り込んで ココアの缶のあたたかさを両手で包み込みながら わたしはひとりで うたっていました。
からす、なぜなくの? からすは山に かわいい七つの子があるからよ かわいい かわいいとからすはなくの かわいい かわいいとなくんだね 山の古巣へ見に行ってごらん かわいい目をした いい子だよ
音楽がなければこの世は闇夜とうたったモーツァルトという うらぶれて死んでいった昔のさびしい独りの人には及ばないだろうけど だけど、今日の日に、最後の最後でわたしを助けてくれたのは 無心で歌われるいくつものいくつもの歌だったと はっきりとわたしは、言い切ることができます。
......No Music, No Life.
まなほ
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