『 hi da ma ri - ra se n 』


「 シンプルに生き死にしたかった 」


2002年12月13日(金) 一枚の布

おふとんの外がこわいから
わたしは顔を出さないで眠る
おふとんの外がこわいから
お日さまが出たのに、わたしは外に出ていかない

目をさましたら、アトピーのしのびよってくる気配がして
ぎゅうっと目をつむった
逃げたい

落ち着いているときは
少し乾燥気味だけどごくふつうかふわふわの肌に見えるわたしの顔は
ある日急にやってくるアトピーって言う同居人の攻撃をあびると
二目とみたくない顔になる。
赤く腫れあがった丸い顔、ばらばら落ちてくる皮膚の上皮、
ムーンフェイス。
崩れる気配と一緒に、それはまるで文字通りにやってきて
均等にかさなる肌の層が、細胞のひとつひとつが崩れていくかんじ。
輪郭線まで変わるので、同じ人とも思えなくなるような
変身。

ピーリングの真っ最中みたいなそれは何?って
この間は聞かれた。
ちょっとした病気持ちでしてと笑ってこたえた。

大事なのは、なにも考えないこと

覚悟をきめたら心のなかを静かにする
とてもとても静かにして、波の立たないようにする
そうしてむくりと起き上がって
涙が出てこないようにする

枕カバーがわりに枕にぐるぐる巻きつけてある
うすい黄色のふわふわのバスタオルに点々と血が散ってた

これがわたしの日常です


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ぽっかりと目を開けたら点いていたはずの豆電球が消えていた
ふと気がついたら閉めていたはずのカーテンがひろびろと開いていた
わたしがやったのか、誰がやったのか
よくわからない
遠いうつつの中で誰かと話をしたようにも思う
誰かがドアから入ってきて通り過ぎていったようにも思う
窓枠にぴったりと付けられたベッドをまたぎ越してカーテンを開けることは
誰にもできないはずだ

何も考えない

眠ることと、眠りにとても似ている覚醒とを
ふらふらと行ったりきたりしながら昼間を過ごす
手離したくないのは昨日の気配、
新しい一日をはじめたくないらしいわたしは
眠りにしがみついて、寝返りをうって
やわらかい枕を引き寄せて抱きしめて、ぎゅっと目を閉じる

ぎゅうぎゅうと目をつむりながら
ゆるゆる動いていく「思い」の淵のなかで、思っていた
サトくんあなたがいなくなってから今日で8箇月です
……たぶん。

あなたがいなくなった時の日付をわたしは正確には知らない。
それを拒むくらいにたったひとりであなたがいなくなってしまったから。
8箇月。
涙なしであなたを悼むことをわたしはおぼえたかも知れない
この時間。

花を贈ることについて痛切に考えるようになりました
花屋さんの店先の前で立ち止まって凍ったみたいに
銀色の細長い容器に投げ入れられたたくさんの花を眺めます
ガーベラが満載だった季節はもう過ぎて、
やわらかでしゃきしゃきした花びらのスプレーマムも通り過ぎて
飾り用の黄色やオレンジ色のかぼちゃが何処にでもごろごろとしていた時もあったけど
今は
クリスマスに合わせた、ポインセチアとシクラメンが
たくさんのスペースを占めるようになりました。

白いポインセチアがあるなんてわたしは知らなかったし
やわらかい桃色のシクラメンも、見知ったものじゃなくて
息を止めて見守ってみたりするけれど

サトくん、どちらもあなたには、似合いません


いっせいに、コスモスがたなびく夢を見た
だれにも、贈れなかった花の風景


真っ白な服でその中に分け入ってみようか
はだしで
しめった土を踏みしめてみようか

わたしの中にあるかなしみは、涙よりも
むしろ怒りと結びついていて、まだ
そこから剥がれることがない
まっすぐに地面にむかって屹立するのはきっと怒りの感情を踏みつける脚で
カメラのファインダーをわたしは睨みつけるのだろう
やわらかな布の白いワンピースも、また
少女らしさや優しさなんかは現さずに、ただ
世界に挑戦的に居ようとするちっぽけな反抗心をあらわして
風にばさばさとなぶられるだろう

それがいい

たっぷりした布もレースも、
臨戦態勢のためにある
無防備な、完全武装は
どこまでも非現実的な白いドレスの中にあるんだ
ロリータ服は、戦闘服
わたしにとっては完璧な武装だから

……涙なしで話せるようになったかも知れない

だけど

あなたの白いほねはまだわたしのなかにまっすぐに突き立っていて
あの青い空もやっぱりわたしのなかに呆然とひろがっていて
わたしの周りにいる幾人もの
それと知らずに心が壊れかけていった人たちの、その先頭を切って
いなくなってしまったあなたの居場所を両手はかたちづくったままで
その場所からまだわたしは動いてないみたいだよ
サトくん


一周忌という言葉の意味を考えた
死ねない、と思った


泣くかわりに
現実感のないお洋服で身を固めて
わたしはあなたの前に立つのかもしれない
遠ざかっていた繊細なレースを求めてこころが叫んだ
お金と引き換えにならない欲望なの
かさぶたをつくりたい、
だけど次々に生まれる傷口とそれを引っ掻く爪は引きも切らず
ジェーンマープル
ビクトリアンメイデン
小公女みたいなドレス
白のワンピース

それはたぶん傷口を覆いかくしてくれる
たったひとつの一枚の布なの




まなほ


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