いつもと反対方向の改札口を抜けてちょっぴり歩いたら 海に行ける いつもと反対方向の電車にちょっぴり乗ったら 海がみえる そういう場所に、わたしは住んでいて そうして、冬の中にいる
冬の海は人がいなくて風がつめたくてどんよりしていて濁っていてさむくて そうして、あったかい なぜあったかいのかはよくわからないけど 海の灰色を、ひとりっきりか それともなければふたりっきりくらいのこころぼそさで眺めていると
さびしくない
そういう気持ちに近づいていくような気がする すごくさびしいのだけど さびしくない ひとりっきりなのだけど ひとりじゃない こころぼそいけど
でもきっとだいじょうぶだ
そんなふうに。
いつもは怖さとつながってわたしを押しつぶそうとする寒さが 寒ければ寒いだけ、それがわたしの力になって ふたりぼっちくらいのこころぼそさが だだーーっと、縦も横もどこまでも深いその「広さ」と真正面で出会う。
動いているのに動いてなくて、しぃんと静かで 顔にふく風がつめたい 空は晴れてなくて、雪が落ちてきそうなくもりで、 空をうつした海の波は夏みたいにキラキラしていないで たいらだ どこまでもたいらだ
いろいろな場所でいろいろな季節にいろいろな海をみたけど でもたぶん、わたしの中にいちばんたかくひろく広がって そうして解けていかない、ただそこに在ってくれる風景は こんな寒い寒い曇った冬の日にふたりぼっちくらいで見る、 灰色の海なんじゃないかと思う
まなほ
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