螺子を巻かれながら
血脈がゆくのをみていた
あの川の岸辺はどこへいったのか
ぼくはすでに忘れてしまったいくつものことを
きみはおぼえているのだろうか
紅く細くつづいたいくつもの
雲の行列に腕を巻かれながら きみは
ぼくのとなりに居なかった幾月かの毎日
なにを 見ていたのだろう
銀の螺旋がそらを登りつめていった
あの丘の天辺を駆けた轟音
耳を貫いた金属のすりへる音のあいだで
きみはたしかに微笑んでいなかったろうか
ふりかえるぼくの肩先できみはしずかにわらう
暗いほうへ 暗いほうへ
誘い招く指のもちぬしがだれなのかぼくたちは知っていて
そうして知らないふりをした
あの夏のしずかな川辺に
置き去りにした記憶の切片
ひとひら ひとひら
うきしずみしながら目に舞い戻る
くるりくるりと続く円舞のなかにきみはいて
ちゃいろの包みを抱えて通りがかったぼくをみて たしかに
あざやかに笑った
……と
たなびく風はつよくぼくたちをなぎたおす
焦げついた風がはこんでくるわずかなあした
それを抱きとめてなおきみは笑った
ひたひたと足元に打ち寄せた色のない砂は
どの天空から転がり落ちた星なのだろうか
きみのとなりにぼくがいた幾月かの日々
くうはくがふたたび
ぼくらを襲う
心象宇宙(カムパネルラとジョバンニ、あの永遠の少年たちに寄せて)A
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