『 hi da ma ri - ra se n 』


「 シンプルに生き死にしたかった 」


2002年09月19日(木) 秋来

あきれるほど行けていなかったアルバイト先の図書館に
この三日間、通いつめていました。
それはたぶん、意思だけで。
ほかにはなんにもできなくて
ぽかんとした空洞が、あいています。


  職員のひとたちはわたしの「動けなさ」や精神科通院のことを全部知っていて
  それでいて、そのまま雇い続けてくれている。
  完全に、ひとのやさしさに頼って生きている、わたしは
  きっととても恵まれているんだと思う。


窓を開けたら
風がつめたくてきもちがよくて
秋になったのだと思って
夏と秋の境目は、わたしにきびしかったけれど
その風はわたしにやさしかったから
やってゆけるかもしれない、
そう思って、

久しぶりに立った図書館のフロアは、ほんのすこし遠いものになっていました。
うまく、動かない体とか。
夏前にくらべても、またすこしばかり細ってしまったせいか
動かしにくくなったブックトラックとか……
じぶんの体重よりもはるかに重たい図書資料の山。

気がつくと意識がどんどん飛んでいて
給料泥棒だなあと苦笑したり自己嫌悪になったり
埃のせいか、ストレスのせいか、腫れてしまった顔を嫌悪したりしながら
お薬に頼りつつ
ぎりぎりの意思を引き絞って
とにかく毎日、家を出てゆきました。
そうするために、四日間念じ続けた
じぶんへのお祈りは、(あるいはじぶんへの命令は)
ようやく果たされて、
一日ずつかりかりと齧っていった、そのプログラムは
ようよう、果たされ。


今はただぼうぜんとしています。
溜め込んだ力を使い切ったのか知れず、
どこにも行かず、なんにも食べず
眠って、眠って、
通院の予定は先延ばしにして、ぼうぜんとここに。


そらは、
見上げたそらは、

あきらかに、先週に降りつづいた雨の前の
あの白っぽく反射する水色ではなくて
かといって、
その前の夏になりきる前の、黒いような青い濃いそらでもなくて、
ただ、聞こえない音がきこえてくるような
とうめいでふかい、遠い青色をしていて

秋が来たんだ、と

思って、わたしは

季節に置き去りにされたまま一年が過ぎて
タイムラグの300日分を抱えたまま
わたしはそろそろと、季節に追いつかれたようでした。


やさしい季節です。
なのに、自傷の誘惑はわたしを襲ってきます。
わたしの居場所はおしなべて資料整理のための各種のラベルやカードやテープや
筆記用具にビニダインという透明な糊のケースなんかが、びっしりと載せられた
古い灰色の三段ブックトラックの前にあって
うしろを振り返れば、
ダンボールで週三回届けられる雑誌の梱包を解くための
3本の大きなオレンジ色のカッターナイフと、はさみが、突き刺さっています。

背中にある刃物は。

手のなかにあるものは、これはわたしを傷つけるためじゃなく
仕事をこなすための道具なんだ、と言い聞かせて
でも、意識が朦朧としているとき何度かはさみで腕を切りました。
そんな失敗をしながら

三日を終えて


わたしは、この、秋のなかに、います。


季節が変わるたびに考えてしまいます。
夏がくれば、涼しげな水をみては、向日葵の黄色をみては、
入道雲の切れ端をみつけては
考えてしまいます。

昨日もまた、そうでした。

秋がくれば、空の色が変わるから。そうして、コスモスが咲くから。


「あなたに見せてあげたかった。」


いちめんに、ふわふわと
揺れる、地面のうえに浮かび上がる
ももいろの海を。




まなほ


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