『 hi da ma ri - ra se n 』


「 シンプルに生き死にしたかった 」


2002年08月15日(木) 諦めても、いい?

わたしにはブレーキがついてない。
アクセルもついてない。
だから一歩踏み出すのにすごくすごく時間がかかる。
そうして踏み出したら、こんどは止まらない。
下り坂にさしかかれば、どんどん転げ落ちながらスピードアップしてくみたいで
止められない。止めることができない。

疾駆。

足は遅いけどココロが突っ走るのはすごく速いの。たぶん。(笑)


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 だれかわたしを止めてよ、押さえつけてあの樹にしばるの
 だからおねがい止めてよ、きつくきつくあの樹にしばるの
 あー朝が来たとき、わたしは生きてるのかしら?生きてるのかしら?
 がじゅまるの樹のしたで

 (こっこ「がじゅまるの樹」)


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そういうわたしが、前にきめたことを、ひるがえすのは、すごく、気力がいることだけど
とうとう、ひとつ諦めることにした。


……図書館司書のスクーリング、今年は、行かない。

じぶんのからだをだいじにしよう。
ほんのすこしだけど、おちつきかけてきたような気のするこのからだを
酷使するのは、やめよう。


この間の週末、小さな旅に出かけて、楽しかった。
電車にもバスにも人ごみにも知らないおじさんの目つきにも、ずっと無縁で
あの嫌なドキドキも手の震えも、いつもよりずうっと少なくてすんで
温泉にも、大浴場にはムリだったけどお部屋のお風呂で入って
ジェーンマープルのふわふわの白いワンピース、たくさん着た。

でも、やっぱり、いくら楽しくても、疲れはたまってゆくんだね。


ほんの少しの時間、帽子と日傘を怠っただけなのに
日に焼けたところから一日中熱が出て、
炎症がじわじわと広がって、顔や首や肩の皮膚が、水をうしなって
ぴしぴしと細かく亀裂していって、なんだか病人になってしまった。
風が痛くて、空気が痛くて、水がしみて、
夏なのに長袖を着て、抱え込むような姿勢で、倒れこんで、ねむるばかり。
まだらみたく赤と白に腫れてる顔をみるとあんまり哀しいから鏡をみたくなくて
でも現実は見ておかなくちゃと思って、鏡に顔を近づけて見る。
ちっともかわいくないあたしがいる。
きちんと見ておこう。
ごわごわの皮膚のわたしを。


このからだで
真夏のスクーリングに往復3時間かけて朝から夕方まで6日間通い続ける自信が、
もとからあまりなかったけれど、その最後のひとひらまで崩れていったから、
勝つ見込みがものすごく低い賭け。

それだから、

……諦めてもいいですか。


風邪を引くのがこわいんだ。熱を出すのが怖いんだ。
食欲が薄れていく前よりも、もう10キロ以上も痩せてしまったからだで、
体力も抵抗力も落ちているからだで
一度ほかの病気をすると、どんどん体力がなくなってしまうから。
病気とケンカすることができなくなって、
病気に負けて、乗っ取られて
それと一緒にこころもずんずん落ちていく、
わたしはたぶん、それを止められなくて。


世間には、いろんな理由や事情があるに違いないけど
とにかく

からだを芯から壊しながらでも守らなくちゃいけないものは
わたしの生活のなかには、そんなにたくさんないんだって、わたしは思う。
相棒とかともだちとかは、自分が壊れても守ってだいじにしてゆきたい。
でも、このあとの数ヶ月を台無しにするかもしれない6日間に、わたしは、
もう、なんだか、踏み出せないよ。


生きることを諦めるかわりに
諦めた、何日分かの講習の日々と
それにかけてきた、わたしのちっぽけな意地とを秤にかけて
とうとう、決めた。

……バイバイ、大学生に戻れる一週間。

ぽっかりと自分であけることにした空白のなか、
忙しくしている周囲を見ても、
やっぱり自分はだめなんだという劣等感に苛まれないように
せめて、一日を、きちんと、だいじに暮らしていこうと思った。


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13日、お盆の日。
とーさんとかーさんが田舎まで出かけた。
でもわたしは到底そこへは行けなかったから
ただ、たまたま通りすがった一軒の花屋さんで、花を選んだ。
サトくんの顔とふわふわのやさしいことを思い出しながら、
たぶんお盆のためのアレンジメントの追い込みで殺気立ってる店員さんの間をくぐって
一本、一本、
花をえらんだ。

ふわふわした細い細い穂のついたグリーンの野草
ほんのりと桃色にかわってゆくつめ草のような、小さなまるい花の枝
まぎれこませた白いカーネーション
たれさがる、薄黄色の穂花
薄みどりの不職布にくるまれて、ほっそりしたリボンで結ばれて
わたしの手元に抱かれた花束。


今まで編んだ花束のなかで、いちばん手放したくなかった。

やさしい花束。


顔を近づけたら、ふわふわと草のにおいがして、
わたしはやっと、あの日の思いにすこし、近づけたと思ったんだ。


へんなふうにくるしくて、べそべそ泣きながら選んだ、花束だけど
でも
今まで選んだ花の中で、いちばん好きな花束だったんだ。


自分で撮った、まっさおな空の写真でつくったはがきを添えて母さんに託した。
宛名のないはがきと封筒と、野原のにおいのする花束。
差出人だけがわたしで、
何処にもほんとうは届かないって知っていても、でも、


あおいあおいそらをみてほしかったんだ。
草のにおいのする野原にねころんで
いつまでも
そこにいてほしかったんだ。




まなほ


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