『 hi da ma ri - ra se n 』


「 シンプルに生き死にしたかった 」


2002年08月04日(日) 倒れるひと、走るひと。

なんというか
身の回りで、倒れてゆくひとが多い。
夏だから、というわけでもなくて
たとえば、すでに二十四年生きたから、そんなふうに見えるので
ときどきひどく、心配になる。

病人のわたしがひとのことを心配するのはおかしいかな。
そんなことはない、と思うけど、、、
余裕があるときしか人は人を思いやれない、というのが理屈なら
なんだかそれは、ひどく冷たくてさびしいことだと思う。

といって
じぶんのことをかえりみずに人のために走り回ってじぶんの首をしめる、
それがわたしを追い込んだ、ひとつの要因でもあるのは
身にしみて、わかっているんだけれど。
ひとを頼るより人に頼られていたひとつの結果として、
わたしはおかしなことになってしまったことも、わかってはいるんだけれど。


でも。


病人、という名前がわたしについたのは、一種故意のことでもあります。
抱えているものが、身体にせよ心にせよ、たぶんひどく慢性的なものだから
もしかしたらあのとき何かを殺せばわたしは「病人」ではなかったかも知れないし
今だって、自分のなかのこのなにか、
弱いものを無視して突き進めば、ここで「闘病」ということばを名乗ることも
じぶんに許さないじぶんになると、思う。

わたしの病気には、生命の危機がないから。
わたしの病気には、そもそも、
たとえば外科的な怪我や急性の病気のような、治る「見込み」がないから。
毎日それに取り囲まれて、解放される日は、いつなのかはわからない。
死ぬまで一緒に手をつないでいなくちゃいけないかも知れない、
そういう部分がひどく大きいので。

つまりは「我慢」がすべてを支配する。
そうやって何年か生きて
何年か、それほど病の存在を意識しない日々があって
また何年か病んで
また何年かふつうに近くなって、
それを繰り返して、そうしてまた暗い痛みの時期がやってきた、ある日。

わたしは自分を「病人」と名乗らせることに決めました。

大学生も終わりを迎える年の、ある日に。


それは、それまでつなげてきた「普通の生活」のなかにある
たくさんの事柄をあきらめることでもあるけれど
その無理矢理から守られることでもあったから。
痛みに耐えて、視線に耐えて、怖いのにも不安なのにも耐えて
全部を耐えたうえにある、わたしの力を超えた義務や責務をシャットアウトして
無理しないで眠っていてもいいよ、
そう、自分にイエスを言える口実でもあるから、
わたしは、
いろんなことを捨てて、それを選んだ。

病気だと宣言すること。

だから今はここにこうやっていて、
同じ年のひとたちが働いたり、学んだり、嫌な思いを我慢したりしているのを余所に
隔絶された場所で、おふとんと、自分の痛みをやわらげられるものを周りにあつめて
自分と内側で暴れているものをみつめて、毎日を暮らしています。


そうやって切り離された場所にいると
ときどき、ふと、
(自分のくるしいのがそんなにひどくないときに、という自分勝手な前提だけど)
まわりの壊れていく様子とか追われていく様子が、クリアに見えたりすることがある。
もともと、そういうことに敏感な気はあるらしいのだけれど、それにしても、


だれかが、病んでいくこと。
追い詰められていくこと。どこかが磨耗してゆくこと。
まざまざと見えていて
それがあんまり多いように思えて
わたしは、この場所はなにかおかしいんじゃないかと思ってしまったりする。
ひとがしあわせに笑って満ち足りることよりも大事で
ひとを傷つけても壊してもかまわないような事柄が、まるで確かにあるかのようで、


「どうして、こわれるくらい、走らなきゃいけないのかな。」


そんな、誰も答えてくれないことを延々とおもって、
しまいに混乱してきて泣き出したくなったり、する。


  みんな、やさしいのに。
  みんな、やさしかったのに。
  だれも、わるくなかったのに。


……やっぱり混乱は激しくて
こうやって書き続けるうちに、こころのなかみは暴れだして
からだはやっぱり傷だらけで(それはしかも自分でつけた傷も含んでいて)
細胞は干上がったまま水をなくしていて
外界の刺激に、耐えるということが、できず、
なにかといえば腫れ上がり熱を出し血と体液を染み出させてべたつき肉が露出して裂けていく、
そういう体は、わたしを握って離さない。
そしてわたしはそのからだを我慢しきることができない。
だから、わたしは、病気と、名乗る、、、、名乗ったんだよね、そうだよね。

そうなんだ。

でもね
それでもね

倒れてゆくひとがあんまりに多いので
追われていくひとがあんまりに多いので

わたしは
あんまりに力ないじぶんに歯噛みをして
そうして
そのまま消えていってしまいそうな気に
支配されそうに、なる。


背景に溶かしこまれて消えていく、一本の鉛筆の下書きの線、みたいに。


いったいこれは
どうしたことだろう。


どうしたことなんだろう。



8月3日、深夜 記  まなほ


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