『 hi da ma ri - ra se n 』


「 シンプルに生き死にしたかった 」


2002年07月16日(火) 台風一過

といっても
風が吹いていたことを知らないのんきなものが、このわたしで
むしろ昨晩も今朝も
いたみと、かゆみと、はがれおちていくじぶんとの
もうおなじみになってしまった闘いの夜でした、

そう表現したほうが嘘がないような気がするのです。

低気圧と高気圧。
この、ただそれだけのものに
左右されるからだというのは
情けなくもあり
便利でもあり
べつに気にしなければよいやなと普段は思いつつも
いざ症状が悪化するのを見つめている身になれば
嘆かずにはいられなくなってくる、
この、わるい癖。
よわい、こころ。

すっかり雨の乾いた庭先にサンダルをつっかけて出ていったら、
きのうはまだ半分くらいしかひらいていなかったダリアの花が
空に向かって紅いはなびらをひろげていた。

光のもと、太陽にむかってすかしみる植物の色は
それが道端にしょぼしょぼとはえている名前のわからない緑でも
凍ったあたしをほほえませるくらいのうつくしさは
存分に持ち合わせています。

そう、息が止まるほどきれいな場所にじぶんが生きているのだと思えること。

庭の隅で花梨の樹の根元にあつまるように生えた
若緑の羊歯のいろの、その繊細なかたちがあんまりにきれいで
あまりにも、天然のレースのようで
つくりもので身を包む気なんてしなくなってしまうくらい
それは、きれいで。

みにくいからだのなかに立てこもりながら
狂おしいくらい、ここからの脱皮をのぞみながら
わたしは

今日もまた一日を終えて
襲ってきた息苦しい時間を
むりやりのお薬で抑えて
それは処方外ののみ方で、つまりオーバードーズではあったけれどあんまりに
髪の毛ならず体中を凍らせて
その灰色の影が帰ってゆくまでじっと耐えることもできないからだは
デパスなりソラナックスなりメイラックスなりを幾粒かのみくだして、かみくだいて
両手を縛りつけるようにパソコンを立ちあげて
空の絵を描きました。

白から、ふかいふかい紺の色へと
気の遠くなるようなグラデーションの筋を
ひとつずつ、つみかさねることで
そうして空をつくりあげることで

今日のわたしの一日が無事に終わるというのならそれでもう、充分です。
なにもかも、もう、充分です。


ごわついてかさついて、皮がむけて
色鉛筆をにぎれなくなったこの手のひらが絵を描きたいと叫んでいて
それなら、鉛筆の代わりをしてあげようと
キーボードやマウスやタブレットが言うのなら
わたしはもう
あなたなしでは生きていけないかも知れないよ?


(ちいさな脅し)


絵を描くことだけが、できあがってゆく絵だけが、わたしの唯一の誇りで
それ以外にはなにも、なにひとつも、
わたしは自分を信用することも褒めることも誇りに思うこともなくて
ただ、汚れていて役立たずなごみためのようなやつだと思うだけだから。

この絵がなければ

この絵がなければ

わたしはなにひとつできないただのおろかものだから。


35本の色鉛筆がいのちの次にたいせつになったとしても
わたしには、なんのふしぎもない。


そんなことを、また、思い出した日。
台風が過ぎ去った空の下で
大気圏のような空の色をうつしだして
ひとり、
お薬を求めていた日。


 < キノウ  もくじ  あさって >


真火 [MAIL]

My追加