2002年06月12日(水) |
あたしが其処へ逝かない理由 |
久しぶりに図書館へ、勤務に行った。 2月ごろに熱を出して体調が悪化してから、ずっと契約をやぶってばかりいる。 急に起き上がれなくなって休んだり、朝は遅刻の連続。 そんなあたしを上司は心配してくれて、それとなく首切りを匂わされて あれはいつだったっけ。 記憶がない。
いつかこういう日がくると思っていた。 まわりの人の「やさしさ」に拠りかかってこの生活を続けているのは 百も承知していたから。だからこの現実は当然の結果だし、 自分は平静な気持ちでうけこたえできると思っていた。 実際のところ、表面的には十分に冷静だったと思う。 まるで「まっとうに社会生活を営んでいるいちにんまえのおとな」みたいに あたしは振舞うことができていた、と、思う。
でも、ほんとうは、すごく不安だった。
そのことに気づけないほど、あたしは、ばかではなくなっていた。
あたまのすみっこに いつも、 いつでもある 薄暗い染みみたいに いつも考えて 新着雑誌を抱えて地下書庫に向かいながら ダムヴェーターを動かしながら 製本のリストを照合しながら コピー機の前に立ちながら
いつも いつも 暗い染みみたいに 頭の裏に「それ」が貼り付いていること。
そしてあたしを狙っていること。
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勝負に出てやろうと思った。 あたしには、「あたし」を守る義務があるんだ。 あたしはその義務を果たさなくちゃ、いけない。
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ぶちまけた。 病気悪化の要因のことも精神科通院のことも、すべてぜんぶ、 ぶちまけて 「あとはそちらの判断にすべてをゆだねます。」 3時間かけて必死にメールを書いて、そのままぐったりして 打ち込んだことばを送信する。
あたしのいのちをつないでください。 そのときたぶん、そんな気持ちでいた。 しにたいというきもち。 不安さん。 消えたいさん。 あたしは役に立たないから。 居るだけで汚れを撒き散らしてひとの迷惑になるだけだから。
「だから、もう、サヨナラ。」
そう言わないために、 逝かない理由をひとつでももっていなければならない。 あたしは、足掻かなければ、いけない。
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足掻いた結果にあたしが得たもの。 七月の終わりまで保障された、週に二日の、出勤日。 そして、そのときの勤務評価で決まる、9月以降の半年の契約。
あたしは打ち勝てたのだろうか。 絞め殺すみたいにじわじわと心の隅からひろがってくる 真っ黒なたやすいゼツボウや、じぶんが切り捨てられる現実に。
「あたしを置いていかないで」
ただそれだけのわかりやすいことばでできた、あたしのたったひとつの願いを 常に裏切っては、あたしをからっぽにまっしろにして かなしいことでたぷたぷに満たしてしまう。 ぼんやりと「逝くこと」を指向させただろう、あしたがくること。
ただかなしんで、 かなしんで、かなしんで、なげいて、そのやさしさのために 黙って世界から消されてゆくひとがいることには、もう我慢ならない。 サトくんが居なくなって、逝ってしまって、 あたしはそう思うようになった。たとえそれが自分であってもやっぱり 言う言葉は、同じことだと思う。 (理屈ではね。)
あたしはちっともやさしくなんてないけれど。 あたしはちっとも、いいひとなんかじゃ、ないけれど・・・だけど
「消されるのはいや」
こんなこころづよいことを言いながら、その一方で、その半面で、 相変わらず 死にたいさん、は、消えない。
「消えたい」 「くるしくないところに、いきたい」 「痛くないところに、いきたい」
白状します。 あたしはこの世界の邪魔者で、ちっとも役に立たなくて、 心ばかりじゃなく身体までもが病気もちで人に迷惑ばかりをかけている、 居るだけでそこらじゅうをゴミだらけにする汚い身体をもっていて もう、どうしようもない。 明日のことなんて考えられず、なおさら、来年のことなんて、 「将来」という立ち塞がるもののことなんて思うだけでそこらじゅうをぶち壊したくなる
そんな生きものです。
あたしの目にうつる、ひとりの「あたし」。
なにか、「びょうき」という名前のものに支配され 世界から追放されかけている「あたし」は そんな姿をしている、おろかなものです。
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一遍の詩をみつけた。
自分で書いたくせに、自分で忘れ去っていた、一遍の詩をみつけた。
そのころあたしは「ある日じぶんが死ぬこと」ばかりを考えていた。 何がそうさせたのかわからないけれど、とにかく考えていた。 たとえば、自分が死ぬ、お葬式があるだろう、お通夜に参列するのは誰だろう 泣いてくれる人はいるのだろうか。
もしも、誰かが、泣いてくれたとして
その涙のゆきさきがないこと、があたしを痛めつけた。 受け取り手であるはずの「あたし」がその場所に居ないことを あたしはひどく、残酷なことだと思った。 ひどく、ひどく、じぶんのまいにちの暮らし方の方法に真っ向から反する まったく残酷で卑怯なやりかただと思った。
行き場のない涙。 行き場のないかなしみ。 手渡せないことば。
ばかなあたしは、じぶんのために流された涙ならば それを見届け、受け取らなければならないと思っていた。 しっかりと心のうちに留めて、受け渡しを完了させなければならないと思う。
たとえ、あたしが死んでも。
たとえば ぼくが ある日 死んで きみをひとりで のこすことになる もう きみをなぐさめにいけなくて それがつらくて ぼくは 逝けない
死ぬことにとりつかれはじめていた、19歳の小娘が思った死をえらばないひとつの理由。 それは「じぶん」のために流されるなみだを受け取ることができないという、ばかげた理由。 あるいは、ひとつの思い上がり。 けれどあたしにとっては19年ぶん積み重ねた自分自身のぜんぶを賭けている、理由。
もしもある日、「それ」が総攻撃をかけて襲ってきたなら あたしは、このことばを思い出すことができるだろうか。 最後の日。 おしまいの日。 最後の抵抗をするつよさを掘り起こして 「それ」との賭けに勝つことができるだろうか。
じぶんを全うするために。
あたしは其処に逝けないと。
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久しぶりに図書館へ、勤務に行った。 案の定、帰り道をたどりきらずにあたしはだめになった。 襲いかかってくるのは、震え、恐怖、無力感、魅力的な逃避ということば。 世界はどんどん遠くなり無彩色にいじけていく。轟音。怯え。 そのなかを歩いてゆくということ。 それははっきり言って、つらい。 涙ぐんで、逃げ出したいとしか考えられない。
だけど、もうしばらく、あたしは、自分を痛めつけるこの行為をやめないだろう。
それは、じぶんでもぎ取ってきた楔。 あたしをこの世界に留めつけるために あたし自身がえらびとった、楔。
それだから。
「 どれだけめちゃくちゃでもいい、ただ、生きていてください 」
それだけが、あなたへの願い。 あたしへの、課題。
2002年、初夏 雨の朝に まなほ
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