2002年04月12日(金) |
遺書:あなたが前触れもなくある日突然死んでしまったわたしは |
よく晴れた日で あなたはどこにもいなかったけれど わたしは生きていた たしかに
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まっくらな夜、突然に電話が鳴りました。
流すべき涙の持ち合わせがないということが あたしには不思議でした。
現実と空想の区別がつかないいつもの毎日の続きみたい。 あたまのなかみはクレイジーな極彩色のマーブルもようを描いて それはどこかのファミリースポットの一角にあったアイス屋のひとすみ、 どぎつい蛍光ピンクとイエローと水色を混ぜたレインボウアイスみたい。 なめて溶かすと舌が染まるの。 不自然に青むらさきの色。
そうして何もない。 何もないの。
突然飛び込んできた電話の中身。 みんなあいまいに笑っていた。 はれものにさわるように言葉を。
そんなもの、うすうす感づけるのにね、ばかだよね。
遺体は警察に。まだかえってこない。告別式。お通夜。 すぐに焼かれてしまう。死に化粧。あしたの朝いちばんの電車で。 ねこちゃんはムリしないでカラダをダイジにするのよ。 菊の花なんて辛気臭くて嫌だよ。茫然自失。おばさんは気丈だね。 行かなくてもいいのよねこちゃんはグアイがわるくなったら困るから。
蚊帳の外で おはなしは ひそひそと語り継がれて あたしは ひとりきりで夜ごはんを胃袋につめこんで 聞き耳をたてる自分に 腹を立てる。 そのひそひそとした後ろ暗さがいやであたしは暴れる。
おとななんてだいきらいだいきらい。 いまさら可哀相もないじゃない生きているうちは追いつめたくせに ばかみたいばかばかしくってやっていられない やわらかい枕を叩きのめして手首の皮膚をねじりきって 言葉にならないうめき声でああああと抗議の声をあげる。
だけどこの茶番劇からは抜け出せないの。
あいかわらず続くひそひそ話とお見舞いへの段取り。 いっそさばさばした口調で人の死を言葉の俎上に乗せるのは不謹慎ですか? 自死をえらびたがりこっそりと自分を傷つけ精神科などに通い お薬をあおっては眠ってしまうわたしにもっともよく似ていたはずの サトくん、 あなたは今、どこにいるんですか。
死。
みたことのないその遠い場所に あなたはどうやって、行こうとしたのですか。
ひとりで。
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いつか誰かまた求めるはず愛されるはず そうなったら幸せでいて、 だけどわたしの誕生日だけは一人泣いて 裸のまま泳いだ海、わたしを思って
Cocco「遺書。」
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恋人ができるまえ、このうたが好きじゃなかった。 きれいさっぱり忘れられてそれがオワリでいいと思った。 そのときあなたが愛してるひとに、それはあんまりな仕打ちだと 思っていたのかもしれない。
恋人ができたとき、あたしはこのうたを思った。
あたしが死んだあと、 あなたは幸せになったらいい。 ならなくちゃいけない。
だけどもしもあなたが死んだなら、 あたしはきっと、そうやってあなたを思って生きてゆくと思った。
誕生日にはひとりで花を選んで あなたにはちっとも似合わなかった花を摘んで ばさばさと乱暴にスカートの裾をひるがえして 火傷しそうに熱い砂の上を どぼどぼととうめいな涙を流しに行くんだと思った。
未練とはちがうなにかのために。
ねえ、サトくん。
あんまり突然にいなくなってしまったから わたしはサトくんのしずかな横顔しか思い出すことができません。 死んでしまったひとを送るための讃美歌を そのときあなたはあたしに教えてくれました。
あなたは、いま、どこにいるんですか。
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