昨日は、暦の上だけでなく春が終わり、夏が来たと実感するような暑さだったのが 今夜はもう肌寒かったりして、入れっぱなしの冷房に今更ブルッと身震いする。 昨夜など、いっそ裸で寝てやろうかと思うほど、ベタベタと寝苦しかった。 ところが今は、今度こそしまおうとしたこたつにまた潜り込むありさまである。 この4月はまことに、昼夜、昨日今日、の寒暖差に翻弄された月であった。
月末なので、来月分の家賃を払いに、階下の大家さん宅を訪問した。
『もう足は大丈夫ですか?』 「ええ。あ、5月に再手術を受けるので、また2週間ほど家を空けます」 『再手術って、ボルトを抜く手術?』 「そうです」 『ああそうそう、お隣の方も、今入院してらっしゃるのよ』 「入院?なんでまた。ご病気なんですか?」 『さあねぇ… 年も年だから、どこか悪くなったんじゃな〜い?』
このアパートは大家さんの自宅の2階を賃貸用に改造したもので 入居できるのは僅か2世帯なのだが、それがアタシとそのお隣さんである。 顔を合わせた時の挨拶以外は特に交流もないが、何やらワケアリめいた年配の婦人だ。
去年だったと思うが、以前、隣室から騒々しい物音と、激しく言い争う声が 聞こえてきたのでビックリして、何ごとかと耳を澄ました。 ことによれば、義務として警察を呼ばなければならないかも知れなかったからである。 ドスン!バタン!という音に混じって、何やら捲し立てる男の声。 『何のために戻ってきたのよう〜』とオイオイ泣き崩れるのは、あの婦人と思われる。
何だ何だ。隣も独り暮らしの筈だが、これ、いちおう痴話喧嘩なのか。 あのう、差し出がましいようですが、別れ話のもつれ…とかですか?|_-;) そんな… あの年になって、お、男とどうこう… な風にはとても見えない 地味な雰囲気の人なのだけれども。まあその辺はね、人は見かけによらないと言うし。 そこへ、大丈夫ですか?と大家さんが隣のドアをノックする音がした。 大家さんが出てきたなら、アタシの出る幕もないか。ホッ。 そうそう、大騒ぎしてるのがウチだと思われても困るからな。
すると、救急車のサイレンの音が近づいてきて、この家のそばで止まった。 玄関のドアを乱暴に閉じたかと思うと、ドタバタと階段を降りて行く足音がする。 ベランダから下を覗けば、大家さんが道路に出て、隣家の奥さんと立ち話しながら 救急車が去って行くのを一緒に見送っているのが判った。 台風一過の静けさ。人には色んな事情があるものだと、つくづく思ったのだった。
それが、今また入院していると聞き、そう言えば近頃隣の部屋の電灯がともるのを 全く見かけないのに合点がいった。なんと、ずっと留守だった訳だ。 (だから大家さん、隣の廊下の電球が切れてるのにわざと取り替えないんだな)
アタシが退院して戻った時には、ミステリアスな隣人も帰宅しているだろうか。
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