みちる草紙

2005年04月26日(火) 夕暮れのジャズマン

日も落ち、空が完全に暗くなっての買いもの帰り。
工事で掘り返された凸凹道に用心しながら、環八沿いを歩いていると
どこからともなく、もの悲しいトランペットの音色が途切れ途切れに聞こえてきた。

はて? 一瞬、幻聴かと疑う。
工事に携わる人夫の軽トラックが、道路脇に何台か駐車されているので
或いはそこから漏れてくるカーステレオの音楽かと思った。
しかし、歩けば歩くほど、その音は次第に鮮明になり耳に届く。

アタシのうちの方向へ折れる、ちょうど曲がり角のところに
工事中の中央分離帯を囲むパイロンが電球で照らされているのだが
そのパイロンの輪のステージに、音の主はいた。

すぐそば、スレスレの距離を、スピードを上げた車が次々行き過ぎる。
陶酔したようにトランペットを吹き鳴らす男の
のめったり仰け反ったりするシルエットがヘッドライトの中に浮かび上がる。

あれ、こんなところでストリートライブ?それとも、ただの練習?
あっけにとられて、ちょっとの間棒立ちになってしまった。
他に聴衆はいない。巧いのか下手なのかは、ちょっと判断がつきかねる。
その人物は、人がいようが構わず、とにかく一心不乱にラッパを吹き続けていた。
それともやはり、聴き手があった方が稽古に張りが出るのかな。
例えそれが、スーパーの袋を提げた通りすがりのおばさんであっても。

角を曲がって家に着くまで、音色は後方から風にのってずっと響いた。

きっと近所迷惑で、自室じゃ練習もままならないのだろう。
ライブハウスで演奏を聴く分にはいいが、薄い壁を隔てただけの隣の部屋で
昼夜パッパカやられたら、まず大抵の人はたまらない。
だけど、車の音に紛れても、環八だって人家からそう離れている訳ではない。
この辺は畑が多く閑静ではあるが、それでも適当な場所を探すのは困難と見える。

部屋でしばらくくつろいだあと、タバコを買いに外へ出ると
孤独なトランペット奏者の奏でる楽の音は、まだ切れ切れに聞こえてくる。
頑張ってるんですね。

苦情が出ないことを祈る。


 < 過去  INDEX  未来 >


[“Transient Portrait” HOME]

↑みちる草紙に1票
My追加