みちる草紙

2005年03月11日(金) 雨の邂逅

昼から雨に見舞われ、汗ばむほどに蒸し暑い夕暮れの新宿。
会社の後輩からの誘いで待ち合わせ、1年ぶりに飲んで話し込んだ。

優しい性格でよく気がつき仕事も出来て、心から可愛く思っていたサトちゃん。
アタシが面接して採用した派遣社員だったが、働きぶりを見込んで正社員に登用したのに
途中で兄弟会社に引き抜かれ、階上のオフィスに去って行った(社長のバカ)。
久々に会ってみると、以前に比べ垢抜けており、少々派手になっていた。

「(言われる前に言う)アタシすごい太って。今、仕事のストレス全然ないからね」
『いや全然。私の方こそ… 足、もう大丈夫ですか?』
「うん、1年近く経つしね。今日みたいな天気の日はちょっと疼くけど」

聞けば、アタシの後任者は大した食わせ者らしい。

『みんな酷い目に遭ってます。早く戻ってきて欲しくて』
「う… う〜ん…」
『S本さん、この頃タバコ吸うようになったんですよ。あの女のストレスで』
「へえ?優秀なS本さんにまで喧嘩売ってんの?どっからくる自信なんだろね」
『間違いを絶対認めないで、食ってかかってくるんですよ』
「社長は…そういうの知らないんでしょ?」
『はい、そりゃ全然態度を変えますから。でも私たちの間で評判は最悪です』

皆の困りようは分かるが、聞けば聞くほど復帰したくなくなる話の内容。
ストレスから解き放たれ、こんなに精神の安らぎを取り戻したというのに今更。
あの魘されるほど大量の義務に翻弄される日々が、またこの身に襲いかかるなんて…。
それこそ、やっと治った足の傷にさわるじゃないか。

サトちゃんはものすごく飲んだ。相当な鬱憤のようである。

最近では、会社のことを思い出すのは、株主総会開催通知が届く時だけ。
と言っても書面上での開催だから、議案の賛意にマルを記入し返送して終り。
例え辞めても、あの会社とはこうして、(小口)株主としての腐れ縁が続くのだ。

駅で別れる際、雨は止んでいたが、街には霧がたちこめて灯りが煙っていた。
まるでお互いの心模様のようだったね、サトちゃん。


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