みちる草紙

2004年12月15日(水) ロマンスカーに揺られて

昨日のうちに熱海の知人宅に泊まっていたので、今朝の来院は楽ちんだった。
週間予報では、今週はずっと晴れると聞いていたのに、今にも降りそうに曇っている。
熱海〜湯河原間は在来線でひと駅。駅から送迎バスに乗り、1ヶ月半ぶりの病院へ。
入院したのは新緑の頃で、真夏の退院時も周囲の山には青々した葉が生い茂っていたが
それも今では紅葉の時季を過ぎ、落葉を待つばかりの寒々と冬枯れた色になっている。

予約より1時間ほど早く到着し、すぐに放射線撮影室でレントゲンを撮った。
仕上がりを待つ間に、かつて同室だった老婦人に出会う。
何でも8月末に一時退院したのだが、1週間で再入院して現在に至るとのこと。
骨盤の骨が折れ左右の足の長さが違ってしまったそうで、片方の足に上げ底の靴を履いて
車椅子に乗っていた。お年がお年だけに、その姿は何だか痛々しい。
『でもね、年末には1週間ほど家に帰れることになったんですよ』
相変わらず優しい声でこう話すこの方は、作家の住井すゑや画家の永田萌とご親戚。
萌さんのサイン入りの画集を何冊かいただいたりしたのに、未だ何もお返しをしておらず
ずっと気になっていた。せめて拙い年賀状をお出ししよう(^_^;)

彼女と別れて、今度はジャイ子さんに声をかけられた。天を突くような巨体の女性で
毎晩大鼾で悩ませてはくれたが、至って人当たりの良い、気さくな性格の人である。
彼女も再入院後、水の溜まったひざの手術に自骨を使い、入院は3ヶ月に及んだと言う。
若年者の場合は人工関節ではなく自骨を使うのが普通なのだが、治癒に時間がかかる。
今日は、アタシと同じく外来で来たそうで、既に杖ですくっと立って歩いていた。
『息子も一緒に来てるんですよ』
そう言えばさっき、ひと目でジャイ子さんの子供と分かる大柄な男の子が歩いていたなぁ。
つくづく良かったと思うのは、内臓疾患で入院したのではないということだ。
怪我であれば日柄もの、こうしてやがて良くなり、皆と元気に再会することも出来る。

今回は、珍しく予約時間内に名前を呼ばれ、スムーズに診察が終わった。
主治医は手術前のレントゲン写真を取り出し、骨折箇所を改めて指し示した。
なるほど、斜めに入った亀裂のところで骨は横にスライドし、完全に折れている。
あたかも日本刀でスパッと薙いだ竹が、横にずれる僅かな一瞬のようである。
それが今では、継ぎ目も分からないほど、見事元通りにくっついているのだ。
プレートを固定するスクリューは5本。4本は垂直に、1本は斜めに頚骨に埋まっている。
くっきり写し出されたスクリュー螺子の細かなギザギザが、機械の身体を意識させる。
『順調ですよ。良かったねぇ』
「ありがとうございます。本当に先生のお陰です」
心から、そう礼を述べずにいられなかった。
抜釘術の前にあと一度だけ、2月23日に再診することになった。
本日の診察費、1,050円也。保険適用とは言え、もんのラビットクリニックより遥かに安い。

タイミング良く、帰りも送迎バスに乗り込むことが出来た。
これであと2ヶ月以上、この病院に来ることはない。
3月も間近いその頃には、今より日も長くなっているだろう。
もんの毛皮のような色の山々に見送られながら、少し名残惜しいような気がした。

今回、行きも帰りも急ぐ旅ではないので、小田急ロマンスカーでのんびりの往復だった。
小田原駅で干物でも買って行こうと思ったが、流石にどれもいいお値段なので
昼食をとったあと、ウロウロ迷っているうちに時間がなくなってしまった。
土産もの屋でちらっと見かけた天むす、やっぱり買っておけば良かった〜(T_T)

家に着くと、大量に入れておいた牧草をすっかり食べ尽くして、もんが待っていた。
この分じゃこいつを残して家を空けられるのは、やっぱり1泊が限度だな。


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