カエルと、ナマコと、水銀と
n.446



 夕焼けに向かって「ドラエモォォーン」

=夕焼けに向かって「ドラエモォォーン」=

最後の瞬間を思い出そうとしてみる。その時の哀しみは思ったよりも深くに埋もれている。もしかしたら。あまりにあっけない終わりは、かえって哀しみが薄いのかもしれない。ボクはどこかに落としてしまったライターに確実にいらつき、煙草が湿るくらい強く唇で噛んでいる。考える。そう、確か、僕はしばらくその関係が終わったことに気付かなかった。僕と彼女の関係は、向こうが会いたいと言って僕が気が向いたら会い、僕が見たい映画があって彼女も見たければ一緒に見る、という種類のものであった。僕は盲目的に、この関係は「終わりの見えない平行線」のように続いていく、と信じていた。また、僕はそのころ他のメル友を紹介されたところで、(会ってみたら不細工だったんだけど)「会おうよ。会おうよ」を連発していたわけで、彼女からの連絡がずっとないことに気付いたのは最後に会ってから一月半ほどが過ぎていた。不安になっているところに「遅くなったけど、今まで一緒にいてくれてありがとう。本当に感謝してます。楽しかったし、色々迷惑かけたし、良い思い出もできました。突然連絡しなくなってごめんね。でも、自分が納得して吹っ切れるまでは連絡しない、って決めてて、そんなときに連絡とっちゃったら『別に誰に迷惑をかけるわけでもないし、十分楽しいし、それに楽だし、このままの関係でいいかな』って思ってダラダラしそうだったから、あえて連絡しませんでした。でも、もう大丈夫です。自分の中で整理がつきました。最後の日、本当は前から『あの日で最後にする』って決めてたんだけど、やっぱり飲み会行っておいて正解でした。それに、ライムサワー二杯もおごってくれてごちそうさまでした。楽しかったし、ご飯もおいしかったしね。ということで、本当にありがとうございました。たぶん、ずっと、忘れないでしょう。サヨナラ」プツリ。道は、自分が思っているより細くて、すぐにちぎれてしまう。ドラエモンの話の中に、ある日怒ったドラエモンがのびた君を残したまま未来へ帰っちゃうというシーンがあったのだけど、僕はちょうど、少し前までタイムマシーンであったはずの引き出しを開けてそこに何もないことを確認したときののびた君と同じ表情をしていた。

2005年05月02日(月)
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