カエルと、ナマコと、水銀と
n.446



 ノラネコ

=ノラネコ=

どうせなら、賢いノラネコになって生きてやろうと思う。きっと賢いノラネコになるのはそう簡単じゃない。おデブな猫になるなら、寂しそうなおばあちゃんにすり寄って家の中でゴロゴロしてれば十分だし、野蛮なボス猫になるためには、ひたすらケンカを続けてればいい。可愛い飼い猫になるのだって、一日中毛繕いしてればどうにでもなる。でも、賢いノラネコは違う。なんたって賢いんだ。「このおっさん、弁当食べてるけど、俺にもくれるかな? くれくれおっさん」なんて、おっさんに近づいていったら、さぁ、おしまいそのおっさんは猫が大嫌いで蹴り飛ばされて死んでしまうかもしれない。今度は反対に、「駄目だ! 危険だ。危険だ」と、ただ逃げ回っているだけではなかなか残飯以外の食にありつけない。そこには微妙な駆け引きが必要とされる。ただ猫なで声を出して手を伸ばしてくる優男がイイ人間とは限らない。腹の中で「この猫をどうにか捕まえて、切って、殺して、埋めてやれ」なんて思ってる異常者かもしれない。またまた、ねじり鉢巻きの魚屋さんはサバを盗んで逃げたら出刃包丁片手にすごい剣幕で追ってくるけれど、実は余った魚だったら恵んでくれる優しいおっちゃんかもしれない。そう、そこには、難しい駆け引きが必要とされる。よくギャンブラーはこう言うんだ、「負けたり、買ったり、騙されたり、騙したりするけど、最終的な勝ちって言うもんは、『どれだけトータルで稼いだか』なんだ」って。どうにか、ちっちゃな傷を身体に刻みながら、なんとか『稼ぎ』を得なければいけない。傷だらけになりながらも、最後は笑うのが賢いノラネコってもんだ。
そう、どうにか、ボクは生き抜いていかなければならない。

2004年06月05日(土)
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