カエルと、ナマコと、水銀と
n.446



 風が撫でてく

=風が撫でてく=

遠くの方まで穂が連なって、風が吹くと暖簾のように緩やかに揺れていた。風が撫でてく。


=破るための約束=

起きあがって何かをしないといけないときにかぎってなんの機会もやってもない。「次○○○が起こったら、やろう」なんて決めてたときにかぎって何も起こらない。「十時になったら起きよう」その約束は、気がないうちに十時を回り、晴れたら勉強しに行こう、そして雨。次こっちを向いたら、あの子に声をかけよう。少し寂しいけれど、すぐに忘れてしまうタイミング。こないものと分かりながら決めるその約束。さ、明日になったら頑張ろう。


=雨あがる=

風が瞬いた。瞬いて木々をなぎ倒して目前へと迫ってきた。光は、稲妻型にねじ曲げられて、高い一本のクスノキへと落ちていった。モグラは土深く奥底で身を丸めてる。月が昇って、水が晴れ、虫が鳴き始めるのを待って、ようやく小さな顔を出す。虫たちは声をからして自由をなく。勝ち取った、平安の月夜を歌っている。しばらく音は鳴り続け、誰もとらない電話のよう。黒の雲は遠くに去っていった。



2004年05月23日(日)
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