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『幻の声 髪結い伊三次捕物余話』 宇江佐真理 (文春文庫) - 2007年09月15日(土)


宇江佐 真理 / 文藝春秋(2000/04)
Amazonランキング:38786位
Amazonおすすめ度:
私は
女性にオススメの捕物帳
恐るべきデビュー作♪



<伊三次誕生10周年を機に再読した。初心忘るべからず>

宇江佐真理さんの髪結いシリーズは現在第7作まで出ているが、伊三次誕生10周年を機に読み返して見ることとした。

副題の“捕物余話”が示すとおり、通常の捕物帖と違って恋愛を軸とした人情話的要素が強いのが特徴である。
本作に収められている全5話のうち、もっとも感動的である「備後表」以外どの犯人も決して悪人として読者に受け入れられない点が非常に印象深いです。
いわば作者の温かさが滲み出ている作品だといえるのだけど、その温かさが主要登場人物のキャラに乗り移っていると言っても過言ではないのであろう。

主人公である伊三次。
床を構えない廻り髪結いを職としている25才の下戸男であるが、本業とは別に下っ引として同心、不破の手下の顔も持っている。
デビュー作なれど全5編の構成もすこぶる良い。
最初の3編は伊三次・お文・不破の主要登場人物の生い立ちをそれぞれの視点から事件をまじえて読者に披露する。

一話一話の捕物的要素(ミステリー度)は低いんだけど、脇役も含めてそれぞれの登場人物の生い立ちが語られ、それがいかに展開していくかがこのシリーズの楽しみであると思われますね。
あとは、気風のいいセリフの飛び交うお文と伊三次との関係も含めて目がますます離せなくなるのですね。

あらためて読み返してみると、不破の妻のいなみがとってもいい味を出しているんですね。最後の「星の降る夜」の伊三次を諭すシーンは「備後表」でおせいと一緒に畳を見に行くシーンと並んで本作の中ではもっとも印象的で感動的なシーンと読者の脳裡に焼き付くであろう。

男性読者の立場からして伊三次を弁護したいと思う点を最後に書かせていただきたい。
恋人であり深川芸者であるお文に比べて頼りないのかもしれないが、その欠点を補って余るほどの長所が彼にはある。
そう彼の“一所懸命生きていこうとする”姿がお文の胸を打つ。
いや読者の胸を打つと言ったほうが適切であろう。
普通“健気”という言葉は男性には使わないのであろうが、伊三次にはあてはまるような気がするのである。 
このあたり、作者の宇江佐さんの女性読者を意識した気配りは賞賛に値する。

伊三次を見るとまるで、私達現代人が日頃忘れているものを思い起こさせてくれているように感じるのである。
それは“目標を持って生きる”ということに他ならない。
読者を強く意識した人物造形が本シリーズの最大の特徴である。

ラストでお金を盗られた伊三次であるが、お文との仲はこじれなかった。
二人の幸せをこのまま次作以降も読者にお裾分けしていただけるのだろうか。

続きが気になって仕方がないのは決して私だけじゃないはずである。

面白い(8)


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